●常任理事国の「拒否権」濫用に歯止め
国連で、五大常任理事国(米・ロ・英・仏・中)がもつ拒否権行使に制限をかける協議がまとまって、近々、決議案にかけられる。
この決議案は、常任理事国が拒否権を行使した場合、国連総会における理由説明を義務つけるもので、きっかけは、ウクライナ危機をめぐる常任理事国のロシアの非難決議案(ロシア軍の撤退)にたいする拒否権発動だったのはいうまでもない。
拒否権抑止の提案は、リヒテンシュタインがおこない、アメリカや日本など40か国以上が共同提案国に名を連ねている。
国連に拒否権≠ニいう特権がもちこまれのは、国連が、第二次世界大戦の戦勝国連合だったからである。米・ロ・英・仏・中の戦勝5か国が常任理事国の特権をえて、戦後の世界秩序が形成される一方、日本とドイツは、枢軸国として敵国条例≠適用されたままである。
常任理事国の拒否権を発動によって、世界の平和が脅かされたのはロシアのウクライナ侵攻だけではない。中国のウイグルやチベット、内モンゴルにおける民族弾圧の調査団派遣や台湾の国連加盟などの議論が中国の拒否権によって封じられて、国連は、いまや、戦勝5か国のためだけに機能する既得権機関となっている。
中国が、ロシアのウクライナ侵攻を容認する構えなのは、近い将来、台湾を攻めるつもりだからで、その場合、常任理事国のロシアの他、多くの国連加盟国が中国支援にまわるだろう。
台湾防衛には、米軍が台湾に駐留させることが望ましいが、バイデンは中国の台湾侵攻に米軍を送らないと明言している。できることといえば台湾に国連監視団(英・米・独・仏・日)を駐留させるくらいだが、それも、中国やロシアら全体主義国家群が反対すれば不可能である。
●世界はミサイル戦争≠フ時代に突入
国連は、世界平和のためのものではなく、5大国が弱小国を侵略するための機関になっているばかりか、その5大国が、国連の内部で争って、世界大戦がおきるなら国連がその舞台になるという、なんとも皮肉な事態をひきおこしている。
国連加盟国193か国中、自由主義国家が少数派の87か国で、残りは独裁あるいは全体主義国家だが、そのなかに常任理事国である中国とロシアがふくまれている。
ロシアのウクライナ侵攻は、その構図からうまれたもので、その延長線上に中国の台湾侵攻がある。
台湾が上海までとどく巡航ミサイル雄昇(射程1200キロ)の量産体制にはいったのは、中国の台湾侵攻にそなえてのものだが、数年以内には、北京を射程(1500キロ)圏内におさめる雄昇改良型が配備されると予想される。
第二のウクライナ危機といわれる中国と台湾の戦争がミサイルの撃ち合いになるとウクライナの悲劇をこえる惨事になる。
一方、朝鮮半島では、北朝鮮が「極超音速ミサイル」の発射実験を成功させると、韓国はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を実戦配備して、両国の緊張が高まっている。
弾道ミサイルは、射程にかかわらず、すべて核弾頭を装備できる戦略兵器である。したがって、ミサイル戦となる今後の戦争にはつねに核戦争のリスクがともなう。
フィンランドやスウェーデンで、NATO加盟の機運が急速に高まってきたのは、ロシアのウクライナ侵攻の危機感からだが、これにたいして、ロシアはフィンランド国境近くにミサイルシステム2基を移動して、両国をけん制している。
フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟すると、フィンランドらへの核攻撃が、第三次世界大戦へつながってゆく。NATOの任務は、加盟国への攻撃をNATO加盟国すべてへの攻撃とみなして「集団的自衛権」の行使する軍事同盟だからである。
●日本は「戦術核使用禁止」の声をあげるべき
戦略核には、相互確証破壊のメカニズムがたらくので、米・ロ・英・仏・中ら国連常任理事国同士やインドとパキスタン、イスラエル、北朝鮮のあいだで核戦争がおこることはありえない。
万が一、あるとすれば「地球破滅のシナリオ」なので、すでに、論じる意味も価値もない。
問題となるのは、相互確証破壊のメカニズムがはたらかない非核兵器国への核攻撃および戦術核の行使である。小型核には、広島長崎に落とされた原爆の半分のものから2%ほどのものまであるが、世界には米ロを中心に数千基の小型核が備蓄されていて、ヨーロッパ諸国も約100基を配備している。
「軍備管理条約(軍備の開発や実験、生産や配備、使用などを規制する国際的合意)」で、戦術核や非戦略核などの小型の核弾頭を規制していないのは、政治的思惑がからんでいるからで、ロシアがウクライナに使用をちらつかせた核も小型核である。
プリンストン大学の軍事シミュレーションによると、ロシアとNATOが小型の核を撃ち合うと、核戦争が誘発されて、数時間後に9000万人以上の死者がでるという。
長期的には、地球滅亡のシナリオに沿って、餓死者をふくめて、10億人が核戦争の犠牲になる可能性があるが、国連には、これを防ぐ手立てがない。
戦略核は、アメリカもロシアも、広島の1000〜3000倍の威力をもった核兵器(原爆・水爆・中性子爆弾)を5000発以上保有しているので、この戦略核をもちいた戦争はおこりえない。
ありうるのが小型核の使用によって誘発される「世界核戦争」である。
日本は、唯一の被爆国としての義務と使命感から、国連に「戦術核や非戦略核の放棄」を提案すべきではないか。
1919年、第一次世界大戦後の「パリ講和会議」で、日本は、人種的差別撤廃提案をおこなった。日本案にフランスやイタリア、中華民国らが賛成して反対のアメリカ、イギリス、ブラジルらを上回ったが、議長のアメリカ大統領ウィルソンが、急きょ「議決は、全会一致、あるいは反対票なし」でなければならないという事実上の拒否権を行使して、日本案をつぶした。
リヒテンシュタインは、世界で6番目に小さい美しい立憲君主制国家(人口4万人)である。そのリヒテンシュタインが、国連で、常任理事国の拒否権濫用に「ノー」の声をあげた。
同じ立憲君主国である大国日本が国連に「戦術核や非戦略核の放棄」を提案するのは、世界で唯一の被爆国である日本という国家の使命ではなかろうか。
2022年04月24日
2022年04月17日
よみがえってきた「帝国主義」の亡霊@
●北欧2国がNATO加盟ならロシアは核配備
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟するか否か、予断はゆるされないが、両国がNATOに加盟すれば、ロシアは、地政学的に致命的な劣勢に立たされる。
モスクワとスウェーデンの首都ストックホルムまで、およそ1200kmである。日本の本州(青森〜山口)の距離である。その範囲内にスウェーデンとフィンランドのほか、国境をへだてて、バルト三国がロシアに迫る。
さらに、ロシアが侵攻したウクライナに隣接して、西にポーランド、南にはチェコとスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、トルコなどNATO加盟国がずらりと控えている。
ロシアは、ウクライナのクリミア半島を併合して、ルガンスク州とドネツク州に親ロ政権を樹立した。その余勢を駆ってウクライナ本国を攻めたが、ウクライナの国土は日本の約1・6倍で、約4500万人の人口を擁する東欧の大国である。抵抗と反攻をうけて、ロシアが大きな痛手をこうむったのは当然だった。
それどころか、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟という想定外の事態を招き、青くなったメドベージェフ前大統領は、スカンディナビア半島にむけて核兵器を配備すると脅しをかける始末だった。
●ウクライナ訪問の英首相への橋下徹の邪推
フィンランドのマリン首相とスウェーデンのアンデション首相はともに女性で、34歳のマリン首相、美貌の持ち主として知られる。そのマリン首相とアンデション首相が会談して、ロシアの軍事的圧力には屈しないという声明を発表して、NATO加盟がいよいよ現実味をおびてきた。
一方、日本では、橋下徹や鳩山由紀夫、テリー伊藤や玉川徹らがウクライナは降伏すべきと主張する。いのちがいちばん大事≠ニいう理屈で、国家など捨てて生命をまもれ、イノチあってのモノダネというのである。
北欧の女性2首相に凛々しさに比べて、日本の男どものなんという情けなさであろう。
敗戦と都市大空襲、二回の被爆、アメリカによる占領と「米ソ冷戦構造」のなかで、戦争のない状態と戦争放棄憲法≠ノ75年間も漬かってきて、とうとう、重症の平和ボケにかかってしまったのである。
橋下は、イギリスのジョンソン首相のウクライナ訪問に違和感をおぼえるという。ジョンソン首相がウクライナに出向いたのは、ロシアのミサイル攻撃が止んで、身の危険がなくなったからという、恥知らずの邪推をはたらかせてのことである。
愚かな話で、ジョンソン首相が危険に身をさらして、万が一のことがあったら、イギリスとロシアの戦争になる。そのときも、橋本は、イギリスに降伏をすすめる気か。
ジョンソン首相が破壊されつくされたキーウを訪問したのは、ウクライナの国民やウクライナ兵士を励ますためだった。国家や防衛よりもスキャンダルのほうに関心がむく日本マスコミ界の寵児、口から先にうまれてきたような橋下には、それがまったく見えないのである。
●驕ったアメリカの凋落と中・ロ帝国主義の台頭
1985年のベルリンの壁崩壊と90年の東西ドイツの統一、91年のソビエト連邦の消滅によって、世界はアメリカ一極体制≠ノ移行した。それから30年後、世界が帝国主義の時代に突入していったのは、アメリカ一極体制が崩れたからだった。
冷戦の終結から1990年のイラク軍のクウェート侵攻、1991年の湾岸戦争をとおして完成したアメリカの一極支配がつまずいたのは、2003年のイラク戦争だった。
イラク戦争は、米英ら連合国軍側の判断の誤りで、イラクが大量破壊兵器を保有(国連決議違反)していなかったにもかかわらず、フセインと50万人のイラク人を殺して、結果として、イスラム国をいうテロ国家をつくりだした。
アメリカは、前大戦で、日本たいしておこなった民間人大虐殺をイラク戦争でもくり返した。
この過ちがアメリカの国威を失墜させ、アメリカの一極体制の終焉の契機となったのである。
アメリカ史上、もっとも愚かな大統領ブッシュの過ちは、イラク戦争だけではなかった。
ブッシュがネオコン(新保守主義)やグローバリゼーション、小泉純一郎が惚れこんだ新自由主義をおしすすめて、世界秩序を破壊すると、世界は、帝国主義の時代に突入していくのである。
アメリカ一極体制から中華思想、大ロシア主義、EU(欧州連合)、大英帝国連邦、イスラムやインド文化圏が競って一国主義をうちだしてくる帝国主義の流れのなかで、突出したのがロシアと中国だった。
●失敗に終わったプーチンの「ユーラシア連合」
両国は、ソ連時代には国境紛争をかかえていたが、モスクワを訪れた中国の江沢民国家主席とプーチン大統領は「中ロ善隣友好協力条約(2001年)」に調印して「戦略的パートナーシップ」の強化へと舵を切った。中ロの協力関係は、旧ソ連・中央アジア諸国とともに設立した「上海協力機構(SCO)」を軸に広がって、これが、アメリカ一極体制に対抗する「多極的世界」へのすべりだしとなった。
ロシアが、アメリカや中国、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などとともに、多極的世界の一極を担う基盤にしようとしたのが、CIS(旧ソ連諸国12か国による独立国家共同体)に代わる「ユーラシア連合(2011年)」だった。プーチンは、旧ソ連諸国の再統合、EUに比肩する経済同盟をつくろうとしたが、ウクライナの離反などで、期待した発展はみられなかった。
理由は、明白で、農業国家から革命によって共産主義国家になったロシアには、資本の論理が根づいていなかったからで、ロシアを軸とした中央アジア地域の経済連合をつくろうにも、そもそも、経済計画のノウハウをもっていなかったのである。
ロシアは、2000年代以降、欧州とアジアにむけて建設したパイプライン(天然ガス)を経済の背骨とする資源国家から脱皮できない一方、資源高で外貨を稼いだプーチンは、20年間、権力を独占して、12兆ルーブル(17兆円)の私財にくわえて1000億ルーブル(1400億円)の宮殿に住み、600億ルーブルの豪華クルーザーをもつ世界有数の金持ちになったが、ロシア経済は、沈滞したままである。
●経済力では中国の足元にもおよばないロシア
中国も共産主義革命の国だが、政治は毛沢東、経済はケ小平という政経分離をおこなって、これをひきついだ習近平は、2013年に「一帯一路」という経済圏構想を打ち出した。
かつて、中国と欧州をむすんでいたシルクロードから引用して、中央アジア経由の経済圏を「陸のシルクロード(一帯)」、インド洋経由の経済圏を「海のシルクロード」(一路)とするもので、経済活動とインフラ整備(鉄道や港湾など)をとりあわせた「一帯一路」は、これまで、途上国で、一応の成果をあげてきた。
もともと、中国は、華僑の国である。華僑人口は約6000万人(2017年)で、資産規模は2兆5000億ドル(約280兆円)以上といわれる。
中国資本主義の原型に、ケ小平の「経済特区」や日本の援助の他に、華僑経済にあったのは疑いがないところで、天然ガスなどの地下資源を売るだけのロシア経済と中国経済の格差には大きなものがある。
次回から、長期戦の様相をみせはじめたウクライナ戦争を、中国とロシアという二つの帝国主義とNATO諸国、日本との関係性をとおしてみていこう。
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟するか否か、予断はゆるされないが、両国がNATOに加盟すれば、ロシアは、地政学的に致命的な劣勢に立たされる。
モスクワとスウェーデンの首都ストックホルムまで、およそ1200kmである。日本の本州(青森〜山口)の距離である。その範囲内にスウェーデンとフィンランドのほか、国境をへだてて、バルト三国がロシアに迫る。
さらに、ロシアが侵攻したウクライナに隣接して、西にポーランド、南にはチェコとスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、トルコなどNATO加盟国がずらりと控えている。
ロシアは、ウクライナのクリミア半島を併合して、ルガンスク州とドネツク州に親ロ政権を樹立した。その余勢を駆ってウクライナ本国を攻めたが、ウクライナの国土は日本の約1・6倍で、約4500万人の人口を擁する東欧の大国である。抵抗と反攻をうけて、ロシアが大きな痛手をこうむったのは当然だった。
それどころか、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟という想定外の事態を招き、青くなったメドベージェフ前大統領は、スカンディナビア半島にむけて核兵器を配備すると脅しをかける始末だった。
●ウクライナ訪問の英首相への橋下徹の邪推
フィンランドのマリン首相とスウェーデンのアンデション首相はともに女性で、34歳のマリン首相、美貌の持ち主として知られる。そのマリン首相とアンデション首相が会談して、ロシアの軍事的圧力には屈しないという声明を発表して、NATO加盟がいよいよ現実味をおびてきた。
一方、日本では、橋下徹や鳩山由紀夫、テリー伊藤や玉川徹らがウクライナは降伏すべきと主張する。いのちがいちばん大事≠ニいう理屈で、国家など捨てて生命をまもれ、イノチあってのモノダネというのである。
北欧の女性2首相に凛々しさに比べて、日本の男どものなんという情けなさであろう。
敗戦と都市大空襲、二回の被爆、アメリカによる占領と「米ソ冷戦構造」のなかで、戦争のない状態と戦争放棄憲法≠ノ75年間も漬かってきて、とうとう、重症の平和ボケにかかってしまったのである。
橋下は、イギリスのジョンソン首相のウクライナ訪問に違和感をおぼえるという。ジョンソン首相がウクライナに出向いたのは、ロシアのミサイル攻撃が止んで、身の危険がなくなったからという、恥知らずの邪推をはたらかせてのことである。
愚かな話で、ジョンソン首相が危険に身をさらして、万が一のことがあったら、イギリスとロシアの戦争になる。そのときも、橋本は、イギリスに降伏をすすめる気か。
ジョンソン首相が破壊されつくされたキーウを訪問したのは、ウクライナの国民やウクライナ兵士を励ますためだった。国家や防衛よりもスキャンダルのほうに関心がむく日本マスコミ界の寵児、口から先にうまれてきたような橋下には、それがまったく見えないのである。
●驕ったアメリカの凋落と中・ロ帝国主義の台頭
1985年のベルリンの壁崩壊と90年の東西ドイツの統一、91年のソビエト連邦の消滅によって、世界はアメリカ一極体制≠ノ移行した。それから30年後、世界が帝国主義の時代に突入していったのは、アメリカ一極体制が崩れたからだった。
冷戦の終結から1990年のイラク軍のクウェート侵攻、1991年の湾岸戦争をとおして完成したアメリカの一極支配がつまずいたのは、2003年のイラク戦争だった。
イラク戦争は、米英ら連合国軍側の判断の誤りで、イラクが大量破壊兵器を保有(国連決議違反)していなかったにもかかわらず、フセインと50万人のイラク人を殺して、結果として、イスラム国をいうテロ国家をつくりだした。
アメリカは、前大戦で、日本たいしておこなった民間人大虐殺をイラク戦争でもくり返した。
この過ちがアメリカの国威を失墜させ、アメリカの一極体制の終焉の契機となったのである。
アメリカ史上、もっとも愚かな大統領ブッシュの過ちは、イラク戦争だけではなかった。
ブッシュがネオコン(新保守主義)やグローバリゼーション、小泉純一郎が惚れこんだ新自由主義をおしすすめて、世界秩序を破壊すると、世界は、帝国主義の時代に突入していくのである。
アメリカ一極体制から中華思想、大ロシア主義、EU(欧州連合)、大英帝国連邦、イスラムやインド文化圏が競って一国主義をうちだしてくる帝国主義の流れのなかで、突出したのがロシアと中国だった。
●失敗に終わったプーチンの「ユーラシア連合」
両国は、ソ連時代には国境紛争をかかえていたが、モスクワを訪れた中国の江沢民国家主席とプーチン大統領は「中ロ善隣友好協力条約(2001年)」に調印して「戦略的パートナーシップ」の強化へと舵を切った。中ロの協力関係は、旧ソ連・中央アジア諸国とともに設立した「上海協力機構(SCO)」を軸に広がって、これが、アメリカ一極体制に対抗する「多極的世界」へのすべりだしとなった。
ロシアが、アメリカや中国、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などとともに、多極的世界の一極を担う基盤にしようとしたのが、CIS(旧ソ連諸国12か国による独立国家共同体)に代わる「ユーラシア連合(2011年)」だった。プーチンは、旧ソ連諸国の再統合、EUに比肩する経済同盟をつくろうとしたが、ウクライナの離反などで、期待した発展はみられなかった。
理由は、明白で、農業国家から革命によって共産主義国家になったロシアには、資本の論理が根づいていなかったからで、ロシアを軸とした中央アジア地域の経済連合をつくろうにも、そもそも、経済計画のノウハウをもっていなかったのである。
ロシアは、2000年代以降、欧州とアジアにむけて建設したパイプライン(天然ガス)を経済の背骨とする資源国家から脱皮できない一方、資源高で外貨を稼いだプーチンは、20年間、権力を独占して、12兆ルーブル(17兆円)の私財にくわえて1000億ルーブル(1400億円)の宮殿に住み、600億ルーブルの豪華クルーザーをもつ世界有数の金持ちになったが、ロシア経済は、沈滞したままである。
●経済力では中国の足元にもおよばないロシア
中国も共産主義革命の国だが、政治は毛沢東、経済はケ小平という政経分離をおこなって、これをひきついだ習近平は、2013年に「一帯一路」という経済圏構想を打ち出した。
かつて、中国と欧州をむすんでいたシルクロードから引用して、中央アジア経由の経済圏を「陸のシルクロード(一帯)」、インド洋経由の経済圏を「海のシルクロード」(一路)とするもので、経済活動とインフラ整備(鉄道や港湾など)をとりあわせた「一帯一路」は、これまで、途上国で、一応の成果をあげてきた。
もともと、中国は、華僑の国である。華僑人口は約6000万人(2017年)で、資産規模は2兆5000億ドル(約280兆円)以上といわれる。
中国資本主義の原型に、ケ小平の「経済特区」や日本の援助の他に、華僑経済にあったのは疑いがないところで、天然ガスなどの地下資源を売るだけのロシア経済と中国経済の格差には大きなものがある。
次回から、長期戦の様相をみせはじめたウクライナ戦争を、中国とロシアという二つの帝国主義とNATO諸国、日本との関係性をとおしてみていこう。
2022年04月10日
ウクライナに核があったらロシアは攻めたか?D
●核の傘≠ニいう幻想に踊る政治家たち
ウクライナ戦争以前、核の実戦配備など考えられもしなかった。
だが、プーチンが核攻撃をちらつかせ、北朝鮮が、韓国に核攻撃の可能性を口にするにいたって、それまでの戦争概念ががらりと変わった。
安全保障が、バランスオブパワーから「核攻撃を自国の核でまもる」という概念へ変容して、ヨーロッパ諸国がこぞって防衛費をGDP比2%へ増額するなど、核をふくめた国家の防衛思想に大転換がおきたのである。
そのなかで、日本だけが「唯一の核被爆国として核廃絶の理想、夢を絶対に捨ててはいけない(自民党国防部/宮沢博行)」などという乙女チックなことをいっている。
自民党国防部は「核をもつと核攻撃の対象になる。したがって、日本が核をもつとかえって危険」とするが、これは核を核で抑止する≠ニいう世界の常識に逆行する。
日米の「拡大抑止」の合意に「核をもっていると敵の攻撃目標になる」などという項目でもあったのか。
拡大抑止は、自国の抑止力を、他国にも提供する思想および構造である。
同盟国が攻撃をうけた場合にも反撃する姿勢をしめすことによって、同盟国への攻撃を思いとどまらせるというのだが、そんなまやかしの論理は、とっくの昔に破綻している。
松野博一官房長官は、米国防総省の「核態勢の見直し」(NPR)に核抑止力と拡大抑止力の両方が維持されているとして絶賛したが、そんなものはことばの遊びにすぎない。
アメリカは、日本や韓国に、核をふくむ「拡大抑止」を約束している。
「基本抑止」が、自国の国民や領土にたいする核抑止である。
そして「拡大抑止」は同盟国への核・通常攻撃を抑止する。
拡大抑止は一般的に核の傘≠ニも呼ばれる。
この核の傘≠ヘ「ニュークリア・シェアリング」とちがって、核抑止力がそなわっていない。
核の傘≠ニ「ニュークリア・シェアリング」はどうちがうのか。
核兵器を国内に保持するのが「ニュークリア・シェアリング」で、核兵器を保有せず、核報復を他国に依存するのが核の傘≠ナある。
核を保有せずに核防衛ができるという、一人よがりで、インチキな理屈が核の傘§_なのである。
●使われないからこそ抑止力になる核兵器
冷戦期にフランスで「アメリカはパリをまもるためにニューヨークを犠牲にするか」という議論がわきあがって、結局、アメリカの核の傘≠ゥら離れて核保有国になった。
フランスが核分裂の理論を確立したのは、日本とほほ同時期の1939年である。第二次大戦終了後の1945年にはフランス原子力庁が設立され、1954年には原爆製造部を設置された。1959年に当時のドゴール将軍が、核戦力の開発を宣言して、1960年にフランス領サハラ砂漠で最初の原爆実験がおこなわれた。
ドゴールの核武装論は、ボーフル陸軍の「抑止と戦略」論にもとづくものだった。
ボーフルは「核大国が敵資源の95%を破壊できるが、核をもたない小国の通常兵器は最大限15%程度にとどまる。これでは戦争抑止力にならない」とドゴールに進言した。
これが、フランスが核保有国になった切実な理由で「核廃絶の理想や夢」を追う日本とは、思想が根本的に異なるのである。
立憲民主党の泉健太代表は、アメリカの核兵器を日本国内に配備する核共有(ニュークリア・シェアリング)の抑止力を否定した。「持っていても使えない核兵器は抑止力にならない」というのだが、泉は、使われないからこそ最大の抑止力となる核の本質のイロハがわかっていないのである。
共産党の穀田恵二(国対委員長)は、自民党の安倍晋三元首相や日本維新の会の松井一郎代表を念頭において「ニュークリア・シェアリングを議論せよというのは、世界の流れに逆行する犯罪的な発言だ」と批判したが、世界の流れを読みちがえているのは日本共産党のほうである。
●核抑止力があるから使える通常兵器
「非核三原則」の日本がウクライナの二の舞にならないのは、実質世界5位の軍事力をもっているからで、中国は、日本が「潜在的核保有国」であることをみとめている。中国メディア(人民日報)が「日本は7日間で原爆をつくれるばかりか、原子物理学やロケット工学で欧米以上の技術をもっている。日本を侮るとひどいめに遭う」などという論文をしばしば載せる。
これが、日中の戦争抑止力になっているのは、じつに皮肉なことである。
航空機や潜水艦をふくめた日中海洋戦のシミュレーションもおこなわれているが、いずれも日本側の圧勝で、中国が、尖閣諸島に手がだせないのはそのせいである。
ロシアの専門家が分析した「ロシアと日本がもういちど日本海海戦(第二次日露戦争)を戦ったらなら」という詳細なレポートも存在する。
結果からいえば、航空戦では互角だが、戦艦と潜水艦戦では日本が圧勝して日本の戦勝が予測されている。
中国は沖縄占有、ロシアが北海道侵略の野心をもっているが、日本の現在の軍事力をもって、沖縄も北海道も、完全に防衛できる。
その前提となるのは「核共有(ニュークリア・シェアリング)」である。
通常兵器の戦闘が可能になるのは、核をもつことによって、敵の核が封じられるからである。使えない核が敵の核を封じる。「もっていても使えない核兵器は抑止力にならない(立憲民主・泉)」というのは完全な事実誤認だったのである。
●右手に核″カ手に国連≠フ五大強国
核をもった大国が核をもたない小国を徹底的に叩いたのが、ベトナム戦争や湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などのアメリカの戦争だった。
ジェノサイト(民族大虐殺)をおこなったのもアメリカで、大都市の空襲や広島長崎への原爆投下で、アメリカは40万人の日本の民間人を殺戮した。
核は、報復をうける可能性がゼロで、最大の攻撃効果が期待される場合のみに使用される。
したがって、イラクが核をもっていたら、フセインと50万人のイラク人が殺されたイラク戦争はおきなかった。
イラクがアメリカに国家をつぶされたのは、イスラエル空軍に核施設を破壊されたからである。今回のウクライナの悲劇は、核をもっていなかったばかりにアメリカから一方的に攻撃をうけた18年前のイラク戦争の再現だったのである。
当時、バクダッドでイラクのラマダン副首相を取材中だったわたしは、大国エゴの戦争リアリズムを痛切にかんじた一人である。ラマダンは「アメリカは攻めてこない、わが国を攻める理由がないからだ」といってフセインと面談をとりつけてくれた。
だが、日本大使館は「今夜の最終便(ヨルダン行)の逃すと取り残される」とわたしにつよく同行をもとめた。その日、大使と二人で、インド人のコックがつくったカレーを食べたあとで、しぶしぶ飛行機に乗ってヨルダンについた直後、アメリカの空爆がはじまった。
ラマダン副大統領は、フセインが絞首刑になった3か月後(2007年3月20日)、バグダッドで死刑が執行された。
アメリカがイラクを攻撃した理由は、生物・化学兵器や原爆をつくる準備をしていたというものだったが、戦後、そんな痕跡はなにもみつからなかった。
ロシアもウクライナが核開発をしていたといういいがかりをつけたが、むろんそんな事実はなかった。
今回のロシアのウクライナ侵略もイラク戦争も、核の威をかさにきた大国のエゴで、冷戦構造崩壊後、世界は、帝国主義の時代に突入していった。
アメリカ一極体制から中華思想、大ロシア主義、EU(欧州連合)、大英帝国連邦、イスラムやインド文化圏がそれぞれ一国主義をうちだす帝国主義乱立の時代に突入したわけで、時代も世界も、混沌としてきた。
次回以降よみがえってきた帝国主義の亡霊≠ニ題して、世界情勢にも目をむけていこう。
ウクライナ戦争以前、核の実戦配備など考えられもしなかった。
だが、プーチンが核攻撃をちらつかせ、北朝鮮が、韓国に核攻撃の可能性を口にするにいたって、それまでの戦争概念ががらりと変わった。
安全保障が、バランスオブパワーから「核攻撃を自国の核でまもる」という概念へ変容して、ヨーロッパ諸国がこぞって防衛費をGDP比2%へ増額するなど、核をふくめた国家の防衛思想に大転換がおきたのである。
そのなかで、日本だけが「唯一の核被爆国として核廃絶の理想、夢を絶対に捨ててはいけない(自民党国防部/宮沢博行)」などという乙女チックなことをいっている。
自民党国防部は「核をもつと核攻撃の対象になる。したがって、日本が核をもつとかえって危険」とするが、これは核を核で抑止する≠ニいう世界の常識に逆行する。
日米の「拡大抑止」の合意に「核をもっていると敵の攻撃目標になる」などという項目でもあったのか。
拡大抑止は、自国の抑止力を、他国にも提供する思想および構造である。
同盟国が攻撃をうけた場合にも反撃する姿勢をしめすことによって、同盟国への攻撃を思いとどまらせるというのだが、そんなまやかしの論理は、とっくの昔に破綻している。
松野博一官房長官は、米国防総省の「核態勢の見直し」(NPR)に核抑止力と拡大抑止力の両方が維持されているとして絶賛したが、そんなものはことばの遊びにすぎない。
アメリカは、日本や韓国に、核をふくむ「拡大抑止」を約束している。
「基本抑止」が、自国の国民や領土にたいする核抑止である。
そして「拡大抑止」は同盟国への核・通常攻撃を抑止する。
拡大抑止は一般的に核の傘≠ニも呼ばれる。
この核の傘≠ヘ「ニュークリア・シェアリング」とちがって、核抑止力がそなわっていない。
核の傘≠ニ「ニュークリア・シェアリング」はどうちがうのか。
核兵器を国内に保持するのが「ニュークリア・シェアリング」で、核兵器を保有せず、核報復を他国に依存するのが核の傘≠ナある。
核を保有せずに核防衛ができるという、一人よがりで、インチキな理屈が核の傘§_なのである。
●使われないからこそ抑止力になる核兵器
冷戦期にフランスで「アメリカはパリをまもるためにニューヨークを犠牲にするか」という議論がわきあがって、結局、アメリカの核の傘≠ゥら離れて核保有国になった。
フランスが核分裂の理論を確立したのは、日本とほほ同時期の1939年である。第二次大戦終了後の1945年にはフランス原子力庁が設立され、1954年には原爆製造部を設置された。1959年に当時のドゴール将軍が、核戦力の開発を宣言して、1960年にフランス領サハラ砂漠で最初の原爆実験がおこなわれた。
ドゴールの核武装論は、ボーフル陸軍の「抑止と戦略」論にもとづくものだった。
ボーフルは「核大国が敵資源の95%を破壊できるが、核をもたない小国の通常兵器は最大限15%程度にとどまる。これでは戦争抑止力にならない」とドゴールに進言した。
これが、フランスが核保有国になった切実な理由で「核廃絶の理想や夢」を追う日本とは、思想が根本的に異なるのである。
立憲民主党の泉健太代表は、アメリカの核兵器を日本国内に配備する核共有(ニュークリア・シェアリング)の抑止力を否定した。「持っていても使えない核兵器は抑止力にならない」というのだが、泉は、使われないからこそ最大の抑止力となる核の本質のイロハがわかっていないのである。
共産党の穀田恵二(国対委員長)は、自民党の安倍晋三元首相や日本維新の会の松井一郎代表を念頭において「ニュークリア・シェアリングを議論せよというのは、世界の流れに逆行する犯罪的な発言だ」と批判したが、世界の流れを読みちがえているのは日本共産党のほうである。
●核抑止力があるから使える通常兵器
「非核三原則」の日本がウクライナの二の舞にならないのは、実質世界5位の軍事力をもっているからで、中国は、日本が「潜在的核保有国」であることをみとめている。中国メディア(人民日報)が「日本は7日間で原爆をつくれるばかりか、原子物理学やロケット工学で欧米以上の技術をもっている。日本を侮るとひどいめに遭う」などという論文をしばしば載せる。
これが、日中の戦争抑止力になっているのは、じつに皮肉なことである。
航空機や潜水艦をふくめた日中海洋戦のシミュレーションもおこなわれているが、いずれも日本側の圧勝で、中国が、尖閣諸島に手がだせないのはそのせいである。
ロシアの専門家が分析した「ロシアと日本がもういちど日本海海戦(第二次日露戦争)を戦ったらなら」という詳細なレポートも存在する。
結果からいえば、航空戦では互角だが、戦艦と潜水艦戦では日本が圧勝して日本の戦勝が予測されている。
中国は沖縄占有、ロシアが北海道侵略の野心をもっているが、日本の現在の軍事力をもって、沖縄も北海道も、完全に防衛できる。
その前提となるのは「核共有(ニュークリア・シェアリング)」である。
通常兵器の戦闘が可能になるのは、核をもつことによって、敵の核が封じられるからである。使えない核が敵の核を封じる。「もっていても使えない核兵器は抑止力にならない(立憲民主・泉)」というのは完全な事実誤認だったのである。
●右手に核″カ手に国連≠フ五大強国
核をもった大国が核をもたない小国を徹底的に叩いたのが、ベトナム戦争や湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などのアメリカの戦争だった。
ジェノサイト(民族大虐殺)をおこなったのもアメリカで、大都市の空襲や広島長崎への原爆投下で、アメリカは40万人の日本の民間人を殺戮した。
核は、報復をうける可能性がゼロで、最大の攻撃効果が期待される場合のみに使用される。
したがって、イラクが核をもっていたら、フセインと50万人のイラク人が殺されたイラク戦争はおきなかった。
イラクがアメリカに国家をつぶされたのは、イスラエル空軍に核施設を破壊されたからである。今回のウクライナの悲劇は、核をもっていなかったばかりにアメリカから一方的に攻撃をうけた18年前のイラク戦争の再現だったのである。
当時、バクダッドでイラクのラマダン副首相を取材中だったわたしは、大国エゴの戦争リアリズムを痛切にかんじた一人である。ラマダンは「アメリカは攻めてこない、わが国を攻める理由がないからだ」といってフセインと面談をとりつけてくれた。
だが、日本大使館は「今夜の最終便(ヨルダン行)の逃すと取り残される」とわたしにつよく同行をもとめた。その日、大使と二人で、インド人のコックがつくったカレーを食べたあとで、しぶしぶ飛行機に乗ってヨルダンについた直後、アメリカの空爆がはじまった。
ラマダン副大統領は、フセインが絞首刑になった3か月後(2007年3月20日)、バグダッドで死刑が執行された。
アメリカがイラクを攻撃した理由は、生物・化学兵器や原爆をつくる準備をしていたというものだったが、戦後、そんな痕跡はなにもみつからなかった。
ロシアもウクライナが核開発をしていたといういいがかりをつけたが、むろんそんな事実はなかった。
今回のロシアのウクライナ侵略もイラク戦争も、核の威をかさにきた大国のエゴで、冷戦構造崩壊後、世界は、帝国主義の時代に突入していった。
アメリカ一極体制から中華思想、大ロシア主義、EU(欧州連合)、大英帝国連邦、イスラムやインド文化圏がそれぞれ一国主義をうちだす帝国主義乱立の時代に突入したわけで、時代も世界も、混沌としてきた。
次回以降よみがえってきた帝国主義の亡霊≠ニ題して、世界情勢にも目をむけていこう。
2022年04月04日
ウクライナに核があったらロシアは攻めたか?C
●非核≠ニ非NATO″痩ニへの圧力
核兵器を搭載したロシアの軍用機(スホーイ24)がスウェーデンの領空を侵犯した。NATO加盟に舵を切るとみて、脅しをかけたのである。
かと思えば、フィンランドの調査機関が「国民の多くがNATO参加をもとめている」というアンケート結果を公表するや、NATOに加盟すれば深刻な軍事的、政治的影響をうけると警告を発した。
そして、デンマークにたいしては、NATOのミサイル防衛(MD)計画に参加すれば、ロシアの核ミサイルの標的になると恫喝をくわえた。
スウェーデンやフィンランド、デンマークなどの大国におどしをかけてくるようでは、ウクライナと隣接するモルドバ、ロシアとの国境線上に領土紛争をかかえるジョージアなどの弱小国の危機感はいかばかりであろうか。
スウェーデンやフィンランド、モルドバやジョージアが軍事的な危機にさらされているのは、ウクライナと同様、NATOに加盟していないからである。
一方、ロシアからの軍事侵攻が危ぶまれてきたバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)が、外交官追放という処分にとどまって、軍事的侵略を免れているのは、NATO加盟国だからである。
ロシアがNATOに手をだせないのは、NATO主要国の英仏が核をもっているほか、ニュークリア・シェアリング協定にもとづいて、アメリカが、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5か国におよそ100個の戦術核(B61)を貸与しているからである。
●事後処理の「核報復」と事前装備の「核防衛」
核の傘≠ニ「ニュークリア・シェアリング」のちがいは決定的である。
ニュークリア・シェアリングが、事前の防衛≠ネのにたいして、核の傘は事後の報復≠ナ、そのときは、すでに、核の傘は破れているのである。
核の保持と運搬方法の確保ができている「ニュークリア・シェアリング」に防衛力がそなわるのは、たとえ、核作動の暗号コードをアメリカがもっていたとしても、たとえ、0・1%であっても、被爆国から核報復をうける可能性があるからで、そのリスクがあるかぎり核抑止力がはたらく。
ところが、事後にはたらく核の傘≠ノは、事前の防衛原則が機能しない。
そこが、事後と事前のちがいで「ニュークリア・シェアリング」は、核防衛に有効だが核の傘≠ヘ核防衛に無効なのである。
核の傘≠ヘ、核攻撃がおこなわれた事後の処理で、アメリカが日本のために核で報復してくれるだろうという期待にすぎない。
そんな夢想的なものを国家の安全保障の基盤において、はたして、日本は、一人前の国家といえるだろうか。
同盟は、戦術であって、運命共同体ではない。同盟に義理立てして、自国や自国民を危機にさらすような愚かな国家指導者がどこにいるだろう。
中国や北朝鮮が東京に原爆を撃ちこんで、アメリカが、ニューヨーク市民の生命を犠牲にして、北京や平城に報復核を撃ちこむ可能性はゼロである。
「非核三原則」や他国に核報復を期待する核の傘を、ただちに断ち切って、現実に目覚めなければならない。
●夢想的すぎる核の傘≠ノよる安全保障
松野博一官房長官は米国防総省の「核態勢の見直し」(NPR)に核抑止力と拡大抑止の維持がもりこまれたとして「盟国として強く支持する」と表明した。
本来なら、日本も、アメリカに「ニュークリア・シェアリング」をもとめるべきであったが、核抑止力のない核の傘≠ノ甘んじて、日本は平然としている。
木原誠二官房副長官も「ニュークリア・シェアリング」などのオプションをしっかり考えていくとのべたものの、核を自国内に受け入れるドイツのような対応は不可能(「なかなか難しい」)とまるで他人事である。
そして、岸田文雄首相は「国是として非核三原則を堅持する」「アメリカとの核共有は非核三原則とは相いれない」と国会でぺらぺらと喋っている。これでは、中国やロシア、北朝鮮に、核を撃ちこんでも、わが国は、核の報復能力をもちませんのでご安心を、といっているようなものである。
国会答弁では「国防上の機密なので答弁できない」とつっぱねておかなければならない。
もともと核の傘≠ヘ、日本が核攻撃をうけた事後処理で、最初の被害者は日本になる。
核の傘≠ヘ日本の被爆を前提にしたおそるべき思想だったのである。
核防衛するには、自前の核を保有して、日本を核攻撃すれば核報復をうけるという「倍返しの論理(佐藤正久/自民党外交部会長)」を打ち立てるほかない。
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼やら核の傘≠竄逕核三原則やらという腰抜けの理屈を吐き散らすのはやめたほうがよいのである。
●ノーベル賞の日本は核の先進国≠セった
核が最大の防衛になるのは、核をこえる兵器が存在しないからである。
だが、攻撃には使えない兵器で、報復をうけると攻撃の利点が帳消しになるどころか、敵国にあたえたのと同等の甚大な被害をうけることになる。
それが核の相互確証破壊≠ナ、核保有国のあいだでは、抑止力がはたらいて、戦争がおきない。
だが、非核保有国が核保有国にたいして、いかに無力であったか、ロシアのウクライナ侵攻で、それが、白日の下にさらされた。
にもかかわらず、日本で核武装論がもちあがってこないのは、世界で唯一の被爆国という意識があるからだが、アメリカが、広島と長崎に原爆を落としたのは、アメリカはすべてをえて、なにも失わないからで、日本が、原子爆弾を完成させていたら、あの悲劇はおきなかった。
わたしが、加瀬英明氏から、直接、聞いた話だが、トルーマンが原爆投下をきめたホワイトハウスの会議に出席したジョン・マクロイ元陸軍長官が加瀬の質問に「日本が原爆を一発でももっていたら、原爆使用はありえなかった」と答えている。
日本が、終戦前に、原爆を完成させる寸前だったことは、ほとんど知られていない。原爆製造の中心的な人物は、ノーベル賞の朝永振一郎、南部陽一郎の師にして、湯川秀樹を指導した日本物理学会の雄、仁科芳雄である。原爆製造に王手をかけながら完成にいたらなかったのは、ウラン鉱石が手に入らなかったからで、中国山地の人形峠で、ウラン鉱床が発見される(1955年)のは、それから10年以上もあとのことだった。
ちなみに、湯川秀樹が熱心な平和運動家になったのは、破壊力が原爆の百倍にもなる中性子爆弾、その中性子の発見者だったからで、湯川は、だれよりも核戦争をおそれていた。
●自国の安全を度外視した「非核三原則」
佐藤栄作は「非核三原則」でノーベル平和賞をもらって、以後、日本はアメリカの核の傘≠ヨの依存(1972年10月9日閣議決定)国是としてきた。
ウクライナも核放棄にあたって、仲介にあたった中国の核の傘≠ノ入ったが、中国は、ウクライナを侵攻したロシアにたいする国連の非難決議で棄権にまわって、核の傘どころか、ウクライナを見殺しにした。
日本には、中国がロシアとウクライナの仲介に入るという甘い観測をのべる識者がいるが、尖閣諸島を奪い、台湾を併合して、沖縄にまで手をのばそうという中国が、ロシアのウクライナ侵略を諫める可能性があるとでも思っているのであろうか。
ウクライナも、1990年に「非核三原則」をうちだして、平和主義路線をつきすすんできた。それが裏目にでたのは、国際認識が甘かったからで、ヤヌコビッチ大統領時代、ロシア国籍の人物が国防大臣をつとめても、ウクライナ国民は不審をいだかなかった。
ウクライナが、1994年、核兵器(核弾頭1240発/大陸間弾道ミサイル176発)を放棄していなかったら、ロシアのウクライナ侵攻はなかったであろうことはいまさらいうまでもない。
ウクライナの核放棄をおこなったのは、2013年、失脚してロシアに亡命したヤヌコーヴィチ元大統領だが、ヤヌコーヴィチは、10兆円の国費を私物化したような男で、核の放棄は、自国の安全を度外視して、ロシアへ迎合した売国行為以外のなにものでもなかった。
核の傘≠笏核三原則は、政治家個人の主義や思想、観念であって、国家の防衛や安全保障にはいささかの益もないことは、これをいくら強調しても強調しすぎることはない。
核兵器を搭載したロシアの軍用機(スホーイ24)がスウェーデンの領空を侵犯した。NATO加盟に舵を切るとみて、脅しをかけたのである。
かと思えば、フィンランドの調査機関が「国民の多くがNATO参加をもとめている」というアンケート結果を公表するや、NATOに加盟すれば深刻な軍事的、政治的影響をうけると警告を発した。
そして、デンマークにたいしては、NATOのミサイル防衛(MD)計画に参加すれば、ロシアの核ミサイルの標的になると恫喝をくわえた。
スウェーデンやフィンランド、デンマークなどの大国におどしをかけてくるようでは、ウクライナと隣接するモルドバ、ロシアとの国境線上に領土紛争をかかえるジョージアなどの弱小国の危機感はいかばかりであろうか。
スウェーデンやフィンランド、モルドバやジョージアが軍事的な危機にさらされているのは、ウクライナと同様、NATOに加盟していないからである。
一方、ロシアからの軍事侵攻が危ぶまれてきたバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)が、外交官追放という処分にとどまって、軍事的侵略を免れているのは、NATO加盟国だからである。
ロシアがNATOに手をだせないのは、NATO主要国の英仏が核をもっているほか、ニュークリア・シェアリング協定にもとづいて、アメリカが、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5か国におよそ100個の戦術核(B61)を貸与しているからである。
●事後処理の「核報復」と事前装備の「核防衛」
核の傘≠ニ「ニュークリア・シェアリング」のちがいは決定的である。
ニュークリア・シェアリングが、事前の防衛≠ネのにたいして、核の傘は事後の報復≠ナ、そのときは、すでに、核の傘は破れているのである。
核の保持と運搬方法の確保ができている「ニュークリア・シェアリング」に防衛力がそなわるのは、たとえ、核作動の暗号コードをアメリカがもっていたとしても、たとえ、0・1%であっても、被爆国から核報復をうける可能性があるからで、そのリスクがあるかぎり核抑止力がはたらく。
ところが、事後にはたらく核の傘≠ノは、事前の防衛原則が機能しない。
そこが、事後と事前のちがいで「ニュークリア・シェアリング」は、核防衛に有効だが核の傘≠ヘ核防衛に無効なのである。
核の傘≠ヘ、核攻撃がおこなわれた事後の処理で、アメリカが日本のために核で報復してくれるだろうという期待にすぎない。
そんな夢想的なものを国家の安全保障の基盤において、はたして、日本は、一人前の国家といえるだろうか。
同盟は、戦術であって、運命共同体ではない。同盟に義理立てして、自国や自国民を危機にさらすような愚かな国家指導者がどこにいるだろう。
中国や北朝鮮が東京に原爆を撃ちこんで、アメリカが、ニューヨーク市民の生命を犠牲にして、北京や平城に報復核を撃ちこむ可能性はゼロである。
「非核三原則」や他国に核報復を期待する核の傘を、ただちに断ち切って、現実に目覚めなければならない。
●夢想的すぎる核の傘≠ノよる安全保障
松野博一官房長官は米国防総省の「核態勢の見直し」(NPR)に核抑止力と拡大抑止の維持がもりこまれたとして「盟国として強く支持する」と表明した。
本来なら、日本も、アメリカに「ニュークリア・シェアリング」をもとめるべきであったが、核抑止力のない核の傘≠ノ甘んじて、日本は平然としている。
木原誠二官房副長官も「ニュークリア・シェアリング」などのオプションをしっかり考えていくとのべたものの、核を自国内に受け入れるドイツのような対応は不可能(「なかなか難しい」)とまるで他人事である。
そして、岸田文雄首相は「国是として非核三原則を堅持する」「アメリカとの核共有は非核三原則とは相いれない」と国会でぺらぺらと喋っている。これでは、中国やロシア、北朝鮮に、核を撃ちこんでも、わが国は、核の報復能力をもちませんのでご安心を、といっているようなものである。
国会答弁では「国防上の機密なので答弁できない」とつっぱねておかなければならない。
もともと核の傘≠ヘ、日本が核攻撃をうけた事後処理で、最初の被害者は日本になる。
核の傘≠ヘ日本の被爆を前提にしたおそるべき思想だったのである。
核防衛するには、自前の核を保有して、日本を核攻撃すれば核報復をうけるという「倍返しの論理(佐藤正久/自民党外交部会長)」を打ち立てるほかない。
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼やら核の傘≠竄逕核三原則やらという腰抜けの理屈を吐き散らすのはやめたほうがよいのである。
●ノーベル賞の日本は核の先進国≠セった
核が最大の防衛になるのは、核をこえる兵器が存在しないからである。
だが、攻撃には使えない兵器で、報復をうけると攻撃の利点が帳消しになるどころか、敵国にあたえたのと同等の甚大な被害をうけることになる。
それが核の相互確証破壊≠ナ、核保有国のあいだでは、抑止力がはたらいて、戦争がおきない。
だが、非核保有国が核保有国にたいして、いかに無力であったか、ロシアのウクライナ侵攻で、それが、白日の下にさらされた。
にもかかわらず、日本で核武装論がもちあがってこないのは、世界で唯一の被爆国という意識があるからだが、アメリカが、広島と長崎に原爆を落としたのは、アメリカはすべてをえて、なにも失わないからで、日本が、原子爆弾を完成させていたら、あの悲劇はおきなかった。
わたしが、加瀬英明氏から、直接、聞いた話だが、トルーマンが原爆投下をきめたホワイトハウスの会議に出席したジョン・マクロイ元陸軍長官が加瀬の質問に「日本が原爆を一発でももっていたら、原爆使用はありえなかった」と答えている。
日本が、終戦前に、原爆を完成させる寸前だったことは、ほとんど知られていない。原爆製造の中心的な人物は、ノーベル賞の朝永振一郎、南部陽一郎の師にして、湯川秀樹を指導した日本物理学会の雄、仁科芳雄である。原爆製造に王手をかけながら完成にいたらなかったのは、ウラン鉱石が手に入らなかったからで、中国山地の人形峠で、ウラン鉱床が発見される(1955年)のは、それから10年以上もあとのことだった。
ちなみに、湯川秀樹が熱心な平和運動家になったのは、破壊力が原爆の百倍にもなる中性子爆弾、その中性子の発見者だったからで、湯川は、だれよりも核戦争をおそれていた。
●自国の安全を度外視した「非核三原則」
佐藤栄作は「非核三原則」でノーベル平和賞をもらって、以後、日本はアメリカの核の傘≠ヨの依存(1972年10月9日閣議決定)国是としてきた。
ウクライナも核放棄にあたって、仲介にあたった中国の核の傘≠ノ入ったが、中国は、ウクライナを侵攻したロシアにたいする国連の非難決議で棄権にまわって、核の傘どころか、ウクライナを見殺しにした。
日本には、中国がロシアとウクライナの仲介に入るという甘い観測をのべる識者がいるが、尖閣諸島を奪い、台湾を併合して、沖縄にまで手をのばそうという中国が、ロシアのウクライナ侵略を諫める可能性があるとでも思っているのであろうか。
ウクライナも、1990年に「非核三原則」をうちだして、平和主義路線をつきすすんできた。それが裏目にでたのは、国際認識が甘かったからで、ヤヌコビッチ大統領時代、ロシア国籍の人物が国防大臣をつとめても、ウクライナ国民は不審をいだかなかった。
ウクライナが、1994年、核兵器(核弾頭1240発/大陸間弾道ミサイル176発)を放棄していなかったら、ロシアのウクライナ侵攻はなかったであろうことはいまさらいうまでもない。
ウクライナの核放棄をおこなったのは、2013年、失脚してロシアに亡命したヤヌコーヴィチ元大統領だが、ヤヌコーヴィチは、10兆円の国費を私物化したような男で、核の放棄は、自国の安全を度外視して、ロシアへ迎合した売国行為以外のなにものでもなかった。
核の傘≠笏核三原則は、政治家個人の主義や思想、観念であって、国家の防衛や安全保障にはいささかの益もないことは、これをいくら強調しても強調しすぎることはない。