●日本はデジタル部門の敗退者だったのか?
1989年度の「世界時価総額ランキング」のトップ50で、日本の企業は32社がランクインしたが、2018年では、わずか1社(トヨタ自動車)にとどまった。
ランクインしたのはIT企業やAI関連のほか、インターネット物流などの電子・デジタル部門ばかりで、製造業は、ITやAIにおされてほとんどがランク外にすがたを消してしまった。
日本が、ITやAIで後れをとった理由は、日本語の壁だった。
日本はパソコンなどのOS(オペレーション・システム)を独自で開発してアップル(時価総額世界1位)やマイクロソフト(2位)と競り合った。日本はスーパーコンピュータやゲーム機、工場ロボットの技術が世界一で、OSについても国産OS(トロン)はマイクロソフトよりも先進的だった。
ところが、OSのマーケットは世界なので、キーから用具の名称、プログラミングにいたるまですべて英語でなければならない。日本人が日本人のためにつくった和製OSが敗退したのは、日本語が国際語ではなかったからだったのである。
ところが、中国や韓国、台湾は、自国でなにも開発せず、アップルやマイクロソフトから技術をそっくり移入、あるいはコピーして、大量生産した。アジアのデジタル企業が大成功したのは、独創性を捨てて、コピーと組み立てという拡大再生産にむかったからだったのである。
部品を提供したのは日本で、世界中のスマホで日本の部品が使われていないものは一つもないといわれるほどだが、日本製のパソコンやスマホの世界シェアは驚くほど低い。
日本は、半導体で敗退したといわれているが、半導体の集積回路(IC)の基板(シリコンウエハー)の分野で、日本の世界シェアは、60%(信越化学工業/SUMCO)で断トツの一位である。
●いつまでも続かないデジタルという架空経済
世界GDPランキング3位の日本と12位の韓国ではやや差があるが、1人当たりGDPでは日本が28位、韓国30位と僅差である。韓国のマスコミは「韓国経済が日本に勝った」と嬉々として報じているが、あながち虚言というわけでもない。
国連経済社会局の調査によると、韓国は、デジタル技術力で8位(日本27位)、政府の電子化ランキングでは2位(日本14位)と、いまや日本をこえるデジタル先進国で、スマホの世界シェアでもトップはアップル(米)ではなく韓国のサムソンである。
ちなみに、日本の1人当たりGDPが世界28位(韓国30位)と低いのは物価や税金、医療費などが安いからで、アメリカの昼食代は日本の3倍以上も高く、低所得者は医者にもかかれない。
ITやAI、インターネットは、ソフト型の経済で、工業製品や資源などはハード型経済である。ハードというのは、地下資源や食品全般、工業製品などの実物経済のことで、これはGDP(国民総生産/付加価値)とかならずしも一致しない。
ウクライナ戦争で1日に2兆円の戦費がかかってもロシア経済が破産しないのは、ロシアは、ITやAI、インターネット分野には後進的でも、世界有数の資源国家にして穀物の大生産国、輸出国だからである。
ITやAI、インターネットが、国家経済を支えることはできないのは、情報や手段、道具でしかない架空経済だからで、みずから財をうむことがない。
いうまでもないが、国家や実物経済を支えるのは、無形の情報や通信、知識ではなく、有形のエネルギー資源や食糧、生産(工業)力などである。
ITやAI、インターネットなどの無形の経済は、一定のレベルにたっして一巡すると徐々に価値を失ってゆく。変わって台頭してくるのが、有形の実物経済、とりわけ、現在、注目されているのがエネルギー資源である。
●そこまで来ている「資源国家日本」の夜明け
日本の排他的経済水域は、中国よりもはるかに広く、韓国の約10倍である。この海域に、将来、採掘が可能な地下資源の質と量は、世界有数で、石油と天然ガスだけでも中東以上といわれている。
中国が尖閣列島を自国領と主張する一方、竹島を不法占拠する韓国が国連に九州南方沖まで自国領海(第7鉱区)と提訴したのは、海底に眠る地下資源を狙ってのことである。
中国が尖閣諸島の領有権を主張しはじめたのは、1969年、国連のアジア極東経済委員会(ECAFE)が石油埋蔵の可能性があるという沿岸鉱物資源調査報告を提出した以降で、それ以前、中国は、尖閣の領有を主張したことはいちどもない。
1951年のサンフランシスコ平和条約で、日本は、台湾と澎湖諸島の領有権を放棄したが、尖閣諸島は日本領として残された。このとき、中国は異議を唱えていない。1972年の日中国交正常化や1978年の日中平和友好条約の交渉でも尖閣は議題にのぼらなかった。
中国が尖閣の占有を主張するのは、台湾を侵略する際、尖閣が日本領だったら不都合だからで、日本が尖閣にミサイル基地をつくれば台湾周辺の制空権と制海権が日本の手に落ちる。
資源と軍事両面の必要性から、中国は、日本から尖閣諸島を奪おうというのである。
韓国の竹島不法占拠や大陸棚宣言も、資源と軍事両面の目的をもっている。
日本海の表記を東海とすべきとする韓国は、日本海にうかぶ島根県の竹島を不法占拠して領有権を主張しているが、2012年、東シナ海の九州南沖から沖縄にいたる広大な海域(第七鉱区)の大陸棚主権を宣言して、堂々と国連に申し入れている。
韓国のいう第7鉱区は、尖閣諸島から九州にむかう沖縄トラフ(海底盆地)の東部海域で、日本の排他的経済水域どころか、九州・沖縄の近海である。
中国も韓国も、日本海と東シナ海を日本と雌雄をあらそう決戦場ととらえて海軍・空軍の増強を強化している。核戦争と全面戦争が不可能な以上、区域を限定した制海権・制空権の確保が領地・領海の事実上の領有宣言となるからである。
●資源防衛≠ワでがふくまれる国家防衛
2022年現在、中国海軍は「遼寧」「山東」の2隻の空母を所有(三隻目を建造中)して、黄海と東シナ海の大半を配下におき、南シナ海の制海・制空権をつよめている。
日本とほぼ同額の軍事費をもつ韓国も、竹島防衛を口実に日本海の制海権を確立すべく、空母や原子力潜水艦の建造をすすめている。
これにたいして日本は、空母4隻体制と最新鋭のF35(104機)による機動部隊で対抗した。安倍晋三元首相の決断によるもので、機動部隊というのは空母中心の艦隊のことである。日本は、複数の機動部隊を設立して、日本海と東シナ海、南シナ海(オイルロード)の制海権・制空権を確立、日本の安全保障を万全としたのである。
核戦争以外の戦争において、攻めるよりまもるほうが有利なのは、地の利がはたらくからで、ベトナムでアメリカが、アフガニスタンで旧ソ連が負けたのも、そして、ウクライナ戦争でロシア圧勝の下馬評がひっくり返ったのはその原理がはたらいたからである。
ちなみに、ナチスに攻められて2000万人の戦死者をだしながら旧ソ連が負けなかったのは、戦地となったレニングラード、スターリングラードが自国領だったからである。
中国や韓国は、日本から制海権や制空権を奪わなければ、尖閣諸島あるいは韓国のいう「第6鉱区」「第7鉱区」に手をだすことができない。
攻めるのは困難でもまもるのはかんたんで、日本が排他的経済水域に艦隊(機動部隊)を送りだすだけで竹島は帰ってくる。竹島は日本の排他的経済水域にあるからである。韓国の海軍が日本艦隊を同海域(第6鉱区)から追いだしたら、その時点で韓国が竹島を実効支配したことになるが、現在の韓国海軍にその力はない。
日本が艦隊を竹島周辺へ配備しないのは、韓国の反発をおそれてのことである。
その論法で、ずるずる後退すれば、日本は韓国に第7鉱区までも奪われる。
第6鉱区(竹島海域)には、韓国の年間ガス使用量30年分のハイドレートガスが埋蔵されているといわれる。
韓国では、第6鉱区どころか、第7鉱区も韓国のものという「なんでもかんでもオレのもの」という例の論調か高まっているという。
次回以降、日本と中国、韓国がシノギをけずる地下資源の宝庫、東シナ海の動向についてのべよう。