戦時中、原爆や都市空襲で、数十万人の非戦闘員を殺したアメリカが、よくもまあ、ありもしなかった、日本の従軍慰安婦問題を非難できるものだと、呆れるしかない。
じぶんの国の価値観で、他国の企業から習慣、文化までランク付けするのが、アメリカの性癖であり、戦略である。そのアメリカが、「人身売買に関する年次報告書」(米国務省)で、日本を発展途上国並みの第二類にすえおいた。
「売春の被害者保護制度」に欠陥があり、「外国人研修制度」における低賃金や長時間強制労働の状況も、改善されていないというのである。
日本は、〇四年に、もっと下位の第二類「監視対象国」に指定されている。理由は、芸能人ビザで入国してくる外国人ホステスの性的搾取、という不名誉なものだった。
そこで、日本政府は、芸能人ビザで入国してくる芸能人(実体はホステス)の観光ビザ発行をきびしく制限、最盛期は十万人前後だった芸能ビザによる入国者数は、現在、八千人程度にまで激減している。
九〇パーセント以上が、芸能タレントではなく、接客ホステスとみなされたわけである。
ところが、〇七年度版でも、「監視対象国」のレッテルは外されたものの、日本は、依然として、第二類の対象国にすえおかれたままだ。
その理由の一つが、ホステスとみなされた芸能人ビザ入国者が入国できなくなったため、日本人男性が、東南アジアへ、買春に出かけているというのだが、いらぬ世話である。
さて、この報告書では、これとはべつに、重要な課題にふれてもいる。
開発途上国から入国してくる研修生問題である。
日本では、外国人の単純労働への就業をみとめていない。したがって、外国人が研修生の名目で就労しているのが、実態である。
〇七年版米国務省の報告書で、外国人研修生制度の欠陥とされているのが、それである。
日本が、外国人労働者を安く、悪条件のもとで使うため、研修制度を悪用しているとみているのである。
ところが、現実は、研修生という名目でなければ、外国人を雇えないからで、賃金や労働条件は、そのことと、まったく、関係がない。
日本政府が、これにビビって、先の芸能人ビザのようなやり方で入国制限をかけると、少子高齢化で、今後、不足してくる一方の労働力の確保が、ますます、むずかしくなってくるだろう。
とくに中小企業にとって、安価な労働力を提供してくれる外国人労働力は、欠くべからざるもので、入国制限で、問題を解決しようとすると、日本企業も、労働力を提供している発展途上国も、大きなダメージをうける。
誤解をまねき、あるいは、外国人労働問題をいびつにしている理由は、日本が、外国人の単純労働を違法としているからである。
アジア各国とのFTAやEPA交渉のなかでも、労働の自由化問題が重要な課題になってきており、外国人の単純労働就業を違法としてはねつけるやり方は、いまでは、時代錯誤の観がつよくなっている。
米国務省の報告書をひきあいにするまでもなく、日本は、国益の見地から、外国人の単純労働規制を緩和する時期を迎えているのではないだろうか。
【参考(マニラ新聞より抜粋)】
●人身売買に関する米国務省の「〇七年度年次報告書」/対象国百四十七カ国(カッコ内アジア)
@第一類、二十八か国/最低限の国際基準を満たすもの
A第二類、七十二か国/国際基準の履行にむけて努力しているもの(タイ、インドネシア、ラオス、シンガポール、ベトナム、フィリピン、日本ほか)
B第二類=監視対象国、三十二か国/国際基準の履行にむけて努力中だが、被害者数も減らず対象の成果も上がってないもの(カンボジアほか)
C第三類=援助停止など制裁対象国、十二か国/国際基準を満たさず改善努力もしてないもの(ミャンマー、マレーシアほか)