2021年11月07日

 なぜ日本は中道政治≠実現できないのかB

 ●新自由主義経済を「宏池会」経済で是正できるか?
 アメリカでもっともリッチな3人といえば、ジェフ・ベゾス(アマゾン)とビル・ゲイツ(マイクロソフト)、そして、ウォーレン・バフェット(ハサウェイ)のことで、いずれも、世界的IT企業の大成者である。
 この3人の資産額約30兆円が、下位50%のアメリカ人(約1億6000万人)の合計資産額を超える。
 世界の金持ち26人が、世界の低所得者の半数にあたる38億人の総資産と同額の富をもち、世界の最富裕層2153人が、世界人口の60%以上になる貧困層46億人の全財産をこえる富をもっている。そして、世界の1%の裕福層が低所得者数69億人の2倍以上の資産を保有する。
 このことからも「神の見えざる手(アダム・スミス)」によって需要と供給のバランスがとれて、資本主義(市場経済)がうまくゆくという話が幻想だったことは明らかだろう。
 アメリカのみならず世界を席巻した新自由主義は、アダム・スミスの「国富論」を加速度的に発展させたもので、自由放任的な資本主義である。
 だが、18世紀の経済は、労働集約型で、21世紀の経済は、コンピュータ集約型である。人間の労働や消費、市場には、限界があるが、コンピュータには限界がない。経済をコンピュータまかせにして、資本主義が怪物化して、人間や社会が疎外されないわけはなかった。
 新自由主義は、神ではなく、悪魔の見えざる手だったかもしれない。
 その手にあたるのが「IT(インターネットを中心とする情報技術)」「AI(人工知能/ロボット工学)で、アメリカ第4位の金持ちマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック)は、創業当時、大学生で、22歳のただのパソコン・オタクだった。

 小泉純一郎や竹中平蔵が、新自由主義にとびついたのは、この新自由主義と並走していた新保守主義が、政府の干渉を排する強固な自由放任主義をとっていたからだった。
 アメリカの新保守主義は、自由競争や自由市場の原則に立った小さな政府をめざすもので、政策的には、減税と社会福祉の見直し、規制緩和の徹底などをあげていた。
 改革が大スキな小泉とマクロ経済とミクロ経済の区別がつかない竹中がこれにとびついた。新たな自由主義経済の出現とでも思ったのであろう。
 だが、アメリカの新自由主義と新保守主義には、壮大な背景があった。
 ブッシュの前任クリントン大統領・ゴア副大統領が構築したシリコンバレーにソフトを集約した「情報スーパーハイウェイ構想」である。
 ブッシュ時代は、同時多発テロとイラク戦争にふりまわされたが、その一方で、デジタル革命は着々とすすみ、経済の中心は、金融や製造業から半導体や「IT」「AI」のソフトへ移り変わっていった。
 1989年(平成元年)の世界時価総額ランキング50で、日本企業は50位中32社がランク入りしていたが、2000年では、NTTとドコモ、トヨタ、ソニー、ソフトバンクの5社にとどまり、2020年では、トヨタ一社になった。
 日本企業が衰退したというよりも、IT企業が急成長して、時価総額(株価×発行済株式数)が二桁単位で膨張したためだが、ザッカーバーグ(フェイスブック)の個人資産がトヨタ自動車の時価総額をこえたところで、実体経済にさほど影響はない。
 問題なのは、世界の資金がIT企業へ集中して、ビジネスモデルがインターネットにきりかわった2000年代に入ってからも、日本がパソコンの導入を渋ったことである。
 デジタル化によって先進国・新興国ともにGDPが急成長するなか、日本のGDPが停滞したのは、パソコンの普及が遅れたからである。
 日本企業のデジタル化は中国や韓国の足元にもおよばない。韓国が「すでに日本を追いこした」と豪語するのは、デジタル部門で日本に完勝しているからである。
 海外メディアは、2019年、厚生労働省と自治体がPCR検査のデータをファックスでやりとりしている実態を「信じがたい事実」とトップニュースで報じたが、韓国の『中央日報』は、パソコンを使ったことがない元建設省キャリア官僚の竹本直一がサイバーセキュリティ戦略本部担当相に就任したことをもって「IT(情報技術)後進国」と断じた。
 2007年、5000万件もの年金記録が不明になった「消えた年金」問題で、民主党とマスコミから責任を追及された自民党が政権を失った。長妻昭(当時民主党)は、国会で年金問題における自民党の責任を論じたが、犯人は、自民党ではなかった。
 年金記録が不明になったのは、民主党(立憲民主党)の支持団体である自治労が社会保険庁と覚書を交わして、職場からパソコンを追放してしまったからだった。「パソコンの導入は労働強化にあたる」というのである。労組や官僚がパソコンをきらうのは、インターネットの世界には、学歴や圧力団体の権力が通用しないからである。

 自治労のバックアップをうけた小川淳也(東大・自治省)が、2021年衆院選の選挙区で「サイバーセキュリティ基本法」を議員立法した平井卓也デジタル大臣(初代)を破って当選した。「なぜ君は総理になれないのか」という、立憲民主党の政治家が首相になれないのは、日本人が愚かだからというキャンペーン映画をヒットさせてのことだった。
 東大(法)をでたからには総理大臣になって当然という論理で、テレビでも東大王やインテリ軍団と東大を手放しでもてはやす。マスコミ界が学歴エリートの巣になっているからである。
 だが、東大生でも、アジアの高校生が学んでいるコンピュータ・プログラムに手も足もでない。
 日本の企業が「時価総額世界ランキング」から脱落したのは、大企業が学歴エリートばかり集めたからで、高学歴者は、難しい理屈は知っていても、半導体マーケットや金融商品、コンピュータ・ソフトなどインターネットがらみのことはなにも知らない。
 日本経済が凋落したのは、大手の製造業や電器メーカー、金融機関が、高学歴神話にとりつかれて、社員が高学歴バカばかりになったからである。
 ちなみに、日本企業が生き残っているのは、99・7%が、叩き上げや高卒が多い中小企業だからである。
 岸田文雄政権が「新しい日本型資本主義」を打ち出して、新自由主義からの決別を宣言した。これにたいして、楽天グループの三木谷浩史会長が「新社会主義にしか聞こえない」と批判したが、楽天グループは日本有数のIT企業とあって、弱者のことなど知ったことではないのだろう。
 だが、貧困層や弱者がふえることによって、資本主義そのものが崩壊してゆく。
 宏池会の経済は、池田勇人の「所得倍増計画」をあげるまでもなく、GDP経済で、生産と分配(所得)、所得の三者のバランスをとりながら拡大させるというものである。
、GDP経済というのは「生産」「分配」「所得」の三面等価に目をむけたもので、株主や投資家だけが大儲けする新自由主義経済とは反対の方向をむいている。
 次回は、岸田政権の経済政策をじっくり検証してみよう。
posted by office YM at 13:16| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする