●高まるアジアの軍事的緊張と「憲法九条」の不均衡
韓国の国防費が、いまのペースでは、6年後には、日本の現在の防衛予算を上回る。
文在寅政権が、GDPの2・2%だった国防予算を2・5%へと上昇させたからで、このままでは、2020年の段階で50兆1527億ウォン(約4兆7000億円)だった国防費が、6年後には5兆4000億円を超える計算になる。
ちなみに、2020年の日本の防衛予算は5兆3222億円だった。
韓国が、国防費の増強にやっきになっているのは、北朝鮮との戦争に備えてのことではない。韓国は、現在、空母の建造を計画しているが、陸上戦となる北朝鮮との戦争に空母など必要ない。
近い将来、韓国が空母を保有するであろう理由は、竹島(韓国名・独島)の占有を恒久化させるためである。韓国の有力紙・中央日報はこう報じる。
「日本は、韓国の領土である独島を自国の土地だと執拗に主張している。そんな日本が空母戦団を独島沖に布陣させ、武力示威をおこなえば、韓国も、空母戦団で対処しなければならない。空母戦団がなければ無防備状態で日本の武力示威を許してしまうことになる」
韓国が危機感を強めたのは、2018年、安倍晋三元首相が「いずも」と「かが」を空母に改造することを閣議決定したからである。
現在、日本は、1万9000トン級のヘリコプター母艦「ひゅうが」と「いせ」を運用している。これにくわえて、2023年までに、2万7000トン級多目的駆逐艦「いずも」と「かが」の2隻を、F35Bを艦載機とする空母に改造しようというのである。さらに、将来的には5万トン級空母(仮称「ほうしょう」)も建造するという。
指揮塔が船の右舷中央にあって、滑走路用の甲板を大きくとってある日本のヘリコプター搭載艦や多目的駆逐艦は、設計時点から垂直離着陸ステルス戦闘機F35Bを搭載する航空母艦に改造することを念頭に建造されている。
日本の空母を警戒しているのは、韓国だけではない。南シナ海でアメリカとしのぎを削っている中国にとって、日本の空母は、大きな脅威になる。
2020年、中国は、渤海で2日間にわたって、空母「山東」の実戦配備となる訓練を実施したが、これは、日米の「インド太平洋戦略」への牽制だったのはいうまでもない。
日本の空母打撃群には、航空母艦を中心に、駆逐艦やミサイル巡洋艦、攻撃型潜水艦や対潜哨戒機、上陸用舟艇や補給艦、さらに、軍事衛星とむすばれたレーダー網とアメリカと共有する情報ネットワークがくわわる。
南シナ海で、アメリカの空母打撃群(空母「ロナルド・レーガン」)とにらみあった中国海軍が、こんどは、東シナ海で日本の空母艦隊と張りあわなければならなくなる。
中国が今回の訓練に動員した山東は、ウクライナから買った未完成の船体を完成させた「遼寧」につづく2隻目の空母だが、3隻目となる国産空母の完成も間近という。
韓国が空母の建設を急ぐのは、独島防衛のためだが、一方、中国は、尖閣諸島の領有と同海域の制海権確保が目的である。
竹島は、日本と朝鮮半島のほぼ中間にあって、対馬海峡から日本海へいたる入口である。竹島から朝鮮半島までは200キロ強で、ここに、日本が強力なレーダーを建てたら、日本海と朝鮮半島を一部が日本の監視下におかれる。
尖閣列島は、中国本土と台湾、沖縄本島のほぼ中央にあって、中国大陸から太平洋にでる上海ルート(東シナ海)の最大の妨害になる。北京から太平洋にでるもう一つが香港ルート(南シナ海)だが、北京から2000キロも離れているばかりか、その場合、艦船は、台湾近海を南下しなければならない。
日本人は、竹島や尖閣列島について、ちっぽけな島と思っているが、両方ともきわめて重大な軍事的要衝である。そのテーマに、マスコミや評論家がふれないのは、憲法九条ばかりに気をとられて、世界の防衛感覚に疎くなっているからであろう。
自衛隊ができる2年前、韓国は、島根県の一部だった竹島を李承晩ラインの内側にとりこんで略奪し、このとき、韓国は、竹島周辺で漁をしていた日本の漁船328隻を拿捕、漁師3929人を拘束して、44人死傷(抑留死亡8人)させている。
軍事力がなければ、当時、北朝鮮よりも国力が低かった韓国からさえこんな酷い扱いをうける。それが国家防衛をめぐる世界の現実で、国民は、軍事力によってまもられるのである。
日本の軍事力は、アメリカ、ロシア、中国、インドに次ぐ世界5位(アメリカの軍事情報サイト/グローバル・ファイヤーパワー2021年版)である。
以下韓国、フランス、イギリスとつづくが、インドは、自前で兵器をつくることができないので、日本が、事実上、第4位ということになる。
中国と比較して、人口で9%、国土で5%以下の日本が軍事力でその中国に次いで4位になっているのは、アメリカがアジア防衛の義務を日本に負わせているからで、日米安保条約とNATO(北大西洋条約機構)が自由世界の安全と安定をまもっている。
ちなみに、軍事力1位のアメリカの軍事費は、2〜10位の軍事費の合計をこえる。NATOや日米安保条約、クアッド(日米豪印戦略対話)およびファイブ・アイズ協定(米英加豪ニュージーランド)は、アメリカの軍事的優位を基礎としたもので、世界最強の安全保障である。
新型兵器開発も、アメリカがリードして、ロシアや中国が後を追う。
現在、この米・ロ・中が熾烈に開発競争をすすめているのが次世代の兵器のエースといわれる「極超音速ミサイル」である。発射後、高高度で分離されたのちマッハ10〜20の速度で飛行して目標を攻撃する。飛行経路も変えられるため、THAADなど既存のミサイル防衛システムでは迎撃できない。
「極超音速ミサイル」の登場によって、旧来のミサイル防衛システムが役立たずになってしまったのである。
日本は、2026年までに「極超音速ミサイル」を開発して沖縄に配備する計画である。専守防衛の縛りから射程500キロにおさえているが、沖縄から尖閣諸島まで(420キロ)なら十分である。日本が実戦配備すれば、世界で4番目の極超音速ミサイル保有国になる。
日本が導入を検討したJASSM(ロッキード社)は戦闘機から発射される空対地ミサイルで、位置情報を入力すれば低空飛行で900キロメートル先の目標物を精密打撃することができる。
だが、費用をめぐって日米間協議が難航するなどして、岸信夫防衛相が打ち切りをきめた。
JASSMは幻となったが、実情は、日本が独自の技術で空対地「極超音速ミサイル」を開発できる見通しが立ったからであろう。
日本は、直系1000メートルに満たない小惑星から岩石をもちかえる宇宙工学(小惑星探査機はやぶさ)と高度なロケット技術をもち、これまで7基の軍事偵察衛星を打ち上げてきた。
この国産ロケット(イプシロン)は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に転用できる。
中国が実力で尖閣列島を奪えないのも、軍事費をいくら増やしても、韓国が日本を圧迫できないのも、日本の軍事テクノロジーが、世界最高の水準にあるからである。
次回は、核保有をふくめた日本の安全保障の今後を展望してみよう。