●無防備ほど平和にとって有害なものはない
日本学術会議の任命を拒否された6人の学者は「秘密保護法」や「安全保障関連法」、「共謀罪法」に反対してきたいわゆる平和勢力≠ナ、反日や反国家なのはともかく、これまで、日本の軍事研究や兵器開発、軍需産業にたいして、一貫して、非協力の姿勢をつらぬいてきた。
第二次安倍政権(2012年)以前、自民党政府は、大手マスコミから護憲派、日本弁護士会や日本学術会議などの平和勢力の前で小さくなって、ろくに防衛論議もできないありさまだった。
軍備や交戦権、軍事力(自衛隊)どころか、国防意識そのものを憲法違反とする日本平和教≠ェ、国家防衛の前に立ちはだかって、世界の軍事的均衡の一翼を担っている日本の足をひっぱってきたのである。
ソ連崩壊やアラブの春、イギリスのEU離脱などを予測した世界的に高名なフランスの歴史学者エマニュエル・トッドはこういう。「戦争になるのは軍事的均衡が破綻したときです。無防備ほど平和にとって有害なものはない」
こうともいう。「核は自国のためだけに使うものです。ドイツをまもるためにフランスが核を使うことがないように、アメリカも、日本をまもるために核を使うことはない。アメリカの核の傘≠ニいうのはジョークでしかない」
日本は自前の核をもつべきという論拠は「核の傘無効論」だったのである。
日本が核をもつなら、インドやパキスタン、北朝鮮のように、核拡散防止条約(NPT)を破棄しなければならない。
アメリカの反対や国際社会からの反発が予想されるが、その場合、NATO(北大西洋条約機構)のニュークリア・シェアリング(核兵器共有)方式という選択肢が浮上してくる。
ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダなどの参加国は、アメリカから核の貸与をうける一方、核兵器を搭載できる軍用機やミサイルなどの技術・装備をもち、自国領土内で核を管理するほか、使用権限も握る。
といっても、核兵器の暗号コードは、アメリカがもち、それが参加国の手に移るのは、核攻撃をうけて、報復する場合に限られる。核戦争はおこらないという前提に立っているので、核の貸与は、核を誇示する敵のブラフ(脅し)に対抗する形式的なもので、実際に、核兵器の暗号コードが参加国に移るかどうか、細部にわたるとりきめはない。
核は、使用できない武器である。万が一、インドとパキスタンが互いに核を撃ち合ったら数億人の犠牲者が出るばかりか、世界の経済や流通、システムが崩壊して、食糧危機がおき、被爆死に倍する死者(餓死者など)がでることになる。
まして、核保有国(米・中・ロ・英・仏・イスラエル)が核を使えば世界は破滅へむかい、5000年前の四大文明や日本の縄文文化からはじまった人類の歴史に終止符が打たれることになる。
二国間の「相互確証破壊(=共倒れ)」の論理で、終局的には、地球の破滅へつながる核と、世界各国の自制とルール、安全を担保する軍事バランスは切り離されていなければならない。
バランスオブパワーをつくりあげているのは、通常兵器による陸・海・空の軍拡競争である。米中摩擦や台湾問題、尖閣列島が大きな紛争へ発展しないのは、米・中・ロ・日・韓およびアセアン・印・豪のあいだで軍事的な均衡がたもたれているからである。
このバランスオブパワーを政治的眼目においたのが、安倍政権で、それまでの日本政治のパラダイムをがらりと変えた。とりわけ第二次安倍政権と菅義偉政権では、外交・防衛上に大きな前進がみられた。
羅列してみよう。
第一次安倍政権以後のうごき
2006年
第一次安倍政権発足
安倍内閣の基本的な外交方針として「価値観外交―自由と繁栄の弧」がうちだされた。
第二次安倍政権以後のうごき
2012年
第二次安倍政権発足
2013年
日英防衛装備品・技術転移協定署名。米国以外との国との初の武器共同開発協力
特定秘密保護法成立
2014年
武器輸出三原則を撤廃。新たに防衛装備移転三原則を閣議決定
憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使容認の閣議決定
英国とミサイル共同開発を決定。自衛隊にミサイルを納入する三菱電機の参画を認可
2015年
日米防衛協力ガイドラインを改定
安全保障関連法(いわゆる戦争法)成立
防衛装備庁が発足。安全保障技術研究推進制度の発足
2016年
安倍首相が「自由で開かれたインド太平洋戦略」(アフリカ開発会議)をうちだす
2017年
自衛隊の中古装備品を他国に無償あるいは低価格で譲渡できる改定自衛隊法が成立
共謀罪成立
2018年
フィリピンに海上自衛隊の練習機TC90を無償譲渡
日英の武器共同開発が本格化。英国の軍需企業が開発した空対空ミサイルに三菱電機の高性能レーダーを組み込む
安倍晋三元首相が「いずも」と「かが」の空母への改造を閣議決定
2019年
ノルウェーの軍需企業と巡航ミサイル買い付けの契約締結
ノルウェーの軍需企業がF35戦闘機に搭載可能な巡航ミサイルの後続契約を日本政府と締結。53億円
2020年
防衛省が「三菱電機製のレーダーをフィリピンに輸出する契約が成立」と発表。日本製の完成品の輸出は初めて。
安倍首相が「ミサイル阻止(=敵基地攻撃能力の保有)年内に方針と」と談話
防衛庁が5兆4898億円(2021年度)の概算要求
防衛装備庁が国内軍需商社(丸紅エアロスペース、伊藤忠アビエーション)とアジア4か国へ武器輸出を本格化させる契約
2020年
菅政権発足 日本学術会議の任命から6人の学者を拒否
イージス艦2隻新造と敵の射程圏外から攻撃できるスタンドオフ・ミサイル(長距離巡航ミサイル)の国産開発の方針を閣議決定。
日本防衛戦略の基本が「航空母艦」「戦闘機」「ミサイル」「潜水艦」の四つの戦力の能力と装備、配置にあるのはいうまでもない。
この4分野の戦力を世界レベルから検証してみよう。
日本の空母艦隊が「ひゅうが」「いせ」「いずも」「かが」の4隻体制をとったのは、ひゅうが(「いせ」をふくむ)といずも(「かが」をふくむ)の戦闘任務と守備範囲が異なるからである。
「ひゅうが」型は、接近してくる敵潜水艦にたいする攻撃で、短魚雷発射管やアスロック対潜ミサイルなどを格納する16セルの垂直発射装置(VLS)を装備する。重兵装だが、対潜水艦用の航空母艦として、世界の最新鋭である。
一方、潜水艦を攻撃する装備をもたない「いずも」型は、本格的な航空母艦としての機能をそなえ、短距離離陸・垂直着陸できるF−35Bステルス戦闘機を艦載する。米海兵隊F35Bが「いずも」からの短距離離陸・垂直着陸をおこなった(ネットで映像公開)のち、海上自衛隊も、日夜、訓練を重ねている。
潜水艦と駆逐艦、空中戦力にまもられる空母船団のなかで、ひときわ威力を発揮するのが空中戦力である、垂直離着陸ステルス戦闘機F35は、F22に次ぐ世界第2位の能力をもつ戦闘機とあって、日本の空母が、東シナ海で中国海軍の空母とにらみ合っても一歩もひけをとらない。
ちなみに、F22はアメリカ空軍のエースで、門外不出にしたため、日本は同等以上の性能をもつ戦闘機(心神)を開発したが、それは後述しよう。
日本の空母打撃群には、航空母艦を中心に、駆逐艦やミサイル巡洋艦、攻撃型潜水艦や対潜哨戒機、上陸用舟艇や補給艦、これに、軍事衛星とむすばれたレーダー網とアメリカと共有する情報ネットワークがくわわる。
実戦では、空母の前後左右に、空対艦ミサイルに備えた迎撃ミサイル体制を整えたイージス艦を配置してさらに万全を期す。
現在、海軍力が世界1位の米、2位の日、3位の英に、仏・蘭・豪・加らをくわえた自由諸国海軍連合の軍事訓練が、太平洋インド海域中心に、精力的におこなわれている。
この軍事的均衡のなかで、中国海軍が尖閣列島を奪える情勢はでてこない。
次回は、日本の「戦闘機」「ミサイル」「潜水艦」が世界と比較してどのレベルにあるかを検証してみよう。