●北欧2国がNATO加盟ならロシアは核配備
フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟するか否か、予断はゆるされないが、両国がNATOに加盟すれば、ロシアは、地政学的に致命的な劣勢に立たされる。
モスクワとスウェーデンの首都ストックホルムまで、およそ1200kmである。日本の本州(青森〜山口)の距離である。その範囲内にスウェーデンとフィンランドのほか、国境をへだてて、バルト三国がロシアに迫る。
さらに、ロシアが侵攻したウクライナに隣接して、西にポーランド、南にはチェコとスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、トルコなどNATO加盟国がずらりと控えている。
ロシアは、ウクライナのクリミア半島を併合して、ルガンスク州とドネツク州に親ロ政権を樹立した。その余勢を駆ってウクライナ本国を攻めたが、ウクライナの国土は日本の約1・6倍で、約4500万人の人口を擁する東欧の大国である。抵抗と反攻をうけて、ロシアが大きな痛手をこうむったのは当然だった。
それどころか、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟という想定外の事態を招き、青くなったメドベージェフ前大統領は、スカンディナビア半島にむけて核兵器を配備すると脅しをかける始末だった。
●ウクライナ訪問の英首相への橋下徹の邪推
フィンランドのマリン首相とスウェーデンのアンデション首相はともに女性で、34歳のマリン首相、美貌の持ち主として知られる。そのマリン首相とアンデション首相が会談して、ロシアの軍事的圧力には屈しないという声明を発表して、NATO加盟がいよいよ現実味をおびてきた。
一方、日本では、橋下徹や鳩山由紀夫、テリー伊藤や玉川徹らがウクライナは降伏すべきと主張する。いのちがいちばん大事≠ニいう理屈で、国家など捨てて生命をまもれ、イノチあってのモノダネというのである。
北欧の女性2首相に凛々しさに比べて、日本の男どものなんという情けなさであろう。
敗戦と都市大空襲、二回の被爆、アメリカによる占領と「米ソ冷戦構造」のなかで、戦争のない状態と戦争放棄憲法≠ノ75年間も漬かってきて、とうとう、重症の平和ボケにかかってしまったのである。
橋下は、イギリスのジョンソン首相のウクライナ訪問に違和感をおぼえるという。ジョンソン首相がウクライナに出向いたのは、ロシアのミサイル攻撃が止んで、身の危険がなくなったからという、恥知らずの邪推をはたらかせてのことである。
愚かな話で、ジョンソン首相が危険に身をさらして、万が一のことがあったら、イギリスとロシアの戦争になる。そのときも、橋本は、イギリスに降伏をすすめる気か。
ジョンソン首相が破壊されつくされたキーウを訪問したのは、ウクライナの国民やウクライナ兵士を励ますためだった。国家や防衛よりもスキャンダルのほうに関心がむく日本マスコミ界の寵児、口から先にうまれてきたような橋下には、それがまったく見えないのである。
●驕ったアメリカの凋落と中・ロ帝国主義の台頭
1985年のベルリンの壁崩壊と90年の東西ドイツの統一、91年のソビエト連邦の消滅によって、世界はアメリカ一極体制≠ノ移行した。それから30年後、世界が帝国主義の時代に突入していったのは、アメリカ一極体制が崩れたからだった。
冷戦の終結から1990年のイラク軍のクウェート侵攻、1991年の湾岸戦争をとおして完成したアメリカの一極支配がつまずいたのは、2003年のイラク戦争だった。
イラク戦争は、米英ら連合国軍側の判断の誤りで、イラクが大量破壊兵器を保有(国連決議違反)していなかったにもかかわらず、フセインと50万人のイラク人を殺して、結果として、イスラム国をいうテロ国家をつくりだした。
アメリカは、前大戦で、日本たいしておこなった民間人大虐殺をイラク戦争でもくり返した。
この過ちがアメリカの国威を失墜させ、アメリカの一極体制の終焉の契機となったのである。
アメリカ史上、もっとも愚かな大統領ブッシュの過ちは、イラク戦争だけではなかった。
ブッシュがネオコン(新保守主義)やグローバリゼーション、小泉純一郎が惚れこんだ新自由主義をおしすすめて、世界秩序を破壊すると、世界は、帝国主義の時代に突入していくのである。
アメリカ一極体制から中華思想、大ロシア主義、EU(欧州連合)、大英帝国連邦、イスラムやインド文化圏が競って一国主義をうちだしてくる帝国主義の流れのなかで、突出したのがロシアと中国だった。
●失敗に終わったプーチンの「ユーラシア連合」
両国は、ソ連時代には国境紛争をかかえていたが、モスクワを訪れた中国の江沢民国家主席とプーチン大統領は「中ロ善隣友好協力条約(2001年)」に調印して「戦略的パートナーシップ」の強化へと舵を切った。中ロの協力関係は、旧ソ連・中央アジア諸国とともに設立した「上海協力機構(SCO)」を軸に広がって、これが、アメリカ一極体制に対抗する「多極的世界」へのすべりだしとなった。
ロシアが、アメリカや中国、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などとともに、多極的世界の一極を担う基盤にしようとしたのが、CIS(旧ソ連諸国12か国による独立国家共同体)に代わる「ユーラシア連合(2011年)」だった。プーチンは、旧ソ連諸国の再統合、EUに比肩する経済同盟をつくろうとしたが、ウクライナの離反などで、期待した発展はみられなかった。
理由は、明白で、農業国家から革命によって共産主義国家になったロシアには、資本の論理が根づいていなかったからで、ロシアを軸とした中央アジア地域の経済連合をつくろうにも、そもそも、経済計画のノウハウをもっていなかったのである。
ロシアは、2000年代以降、欧州とアジアにむけて建設したパイプライン(天然ガス)を経済の背骨とする資源国家から脱皮できない一方、資源高で外貨を稼いだプーチンは、20年間、権力を独占して、12兆ルーブル(17兆円)の私財にくわえて1000億ルーブル(1400億円)の宮殿に住み、600億ルーブルの豪華クルーザーをもつ世界有数の金持ちになったが、ロシア経済は、沈滞したままである。
●経済力では中国の足元にもおよばないロシア
中国も共産主義革命の国だが、政治は毛沢東、経済はケ小平という政経分離をおこなって、これをひきついだ習近平は、2013年に「一帯一路」という経済圏構想を打ち出した。
かつて、中国と欧州をむすんでいたシルクロードから引用して、中央アジア経由の経済圏を「陸のシルクロード(一帯)」、インド洋経由の経済圏を「海のシルクロード」(一路)とするもので、経済活動とインフラ整備(鉄道や港湾など)をとりあわせた「一帯一路」は、これまで、途上国で、一応の成果をあげてきた。
もともと、中国は、華僑の国である。華僑人口は約6000万人(2017年)で、資産規模は2兆5000億ドル(約280兆円)以上といわれる。
中国資本主義の原型に、ケ小平の「経済特区」や日本の援助の他に、華僑経済にあったのは疑いがないところで、天然ガスなどの地下資源を売るだけのロシア経済と中国経済の格差には大きなものがある。
次回から、長期戦の様相をみせはじめたウクライナ戦争を、中国とロシアという二つの帝国主義とNATO諸国、日本との関係性をとおしてみていこう。