●常任理事国の「拒否権」濫用に歯止め
国連で、五大常任理事国(米・ロ・英・仏・中)がもつ拒否権行使に制限をかける協議がまとまって、近々、決議案にかけられる。
この決議案は、常任理事国が拒否権を行使した場合、国連総会における理由説明を義務つけるもので、きっかけは、ウクライナ危機をめぐる常任理事国のロシアの非難決議案(ロシア軍の撤退)にたいする拒否権発動だったのはいうまでもない。
拒否権抑止の提案は、リヒテンシュタインがおこない、アメリカや日本など40か国以上が共同提案国に名を連ねている。
国連に拒否権≠ニいう特権がもちこまれのは、国連が、第二次世界大戦の戦勝国連合だったからである。米・ロ・英・仏・中の戦勝5か国が常任理事国の特権をえて、戦後の世界秩序が形成される一方、日本とドイツは、枢軸国として敵国条例≠適用されたままである。
常任理事国の拒否権を発動によって、世界の平和が脅かされたのはロシアのウクライナ侵攻だけではない。中国のウイグルやチベット、内モンゴルにおける民族弾圧の調査団派遣や台湾の国連加盟などの議論が中国の拒否権によって封じられて、国連は、いまや、戦勝5か国のためだけに機能する既得権機関となっている。
中国が、ロシアのウクライナ侵攻を容認する構えなのは、近い将来、台湾を攻めるつもりだからで、その場合、常任理事国のロシアの他、多くの国連加盟国が中国支援にまわるだろう。
台湾防衛には、米軍が台湾に駐留させることが望ましいが、バイデンは中国の台湾侵攻に米軍を送らないと明言している。できることといえば台湾に国連監視団(英・米・独・仏・日)を駐留させるくらいだが、それも、中国やロシアら全体主義国家群が反対すれば不可能である。
●世界はミサイル戦争≠フ時代に突入
国連は、世界平和のためのものではなく、5大国が弱小国を侵略するための機関になっているばかりか、その5大国が、国連の内部で争って、世界大戦がおきるなら国連がその舞台になるという、なんとも皮肉な事態をひきおこしている。
国連加盟国193か国中、自由主義国家が少数派の87か国で、残りは独裁あるいは全体主義国家だが、そのなかに常任理事国である中国とロシアがふくまれている。
ロシアのウクライナ侵攻は、その構図からうまれたもので、その延長線上に中国の台湾侵攻がある。
台湾が上海までとどく巡航ミサイル雄昇(射程1200キロ)の量産体制にはいったのは、中国の台湾侵攻にそなえてのものだが、数年以内には、北京を射程(1500キロ)圏内におさめる雄昇改良型が配備されると予想される。
第二のウクライナ危機といわれる中国と台湾の戦争がミサイルの撃ち合いになるとウクライナの悲劇をこえる惨事になる。
一方、朝鮮半島では、北朝鮮が「極超音速ミサイル」の発射実験を成功させると、韓国はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を実戦配備して、両国の緊張が高まっている。
弾道ミサイルは、射程にかかわらず、すべて核弾頭を装備できる戦略兵器である。したがって、ミサイル戦となる今後の戦争にはつねに核戦争のリスクがともなう。
フィンランドやスウェーデンで、NATO加盟の機運が急速に高まってきたのは、ロシアのウクライナ侵攻の危機感からだが、これにたいして、ロシアはフィンランド国境近くにミサイルシステム2基を移動して、両国をけん制している。
フィンランドやスウェーデンがNATOに加盟すると、フィンランドらへの核攻撃が、第三次世界大戦へつながってゆく。NATOの任務は、加盟国への攻撃をNATO加盟国すべてへの攻撃とみなして「集団的自衛権」の行使する軍事同盟だからである。
●日本は「戦術核使用禁止」の声をあげるべき
戦略核には、相互確証破壊のメカニズムがたらくので、米・ロ・英・仏・中ら国連常任理事国同士やインドとパキスタン、イスラエル、北朝鮮のあいだで核戦争がおこることはありえない。
万が一、あるとすれば「地球破滅のシナリオ」なので、すでに、論じる意味も価値もない。
問題となるのは、相互確証破壊のメカニズムがはたらかない非核兵器国への核攻撃および戦術核の行使である。小型核には、広島長崎に落とされた原爆の半分のものから2%ほどのものまであるが、世界には米ロを中心に数千基の小型核が備蓄されていて、ヨーロッパ諸国も約100基を配備している。
「軍備管理条約(軍備の開発や実験、生産や配備、使用などを規制する国際的合意)」で、戦術核や非戦略核などの小型の核弾頭を規制していないのは、政治的思惑がからんでいるからで、ロシアがウクライナに使用をちらつかせた核も小型核である。
プリンストン大学の軍事シミュレーションによると、ロシアとNATOが小型の核を撃ち合うと、核戦争が誘発されて、数時間後に9000万人以上の死者がでるという。
長期的には、地球滅亡のシナリオに沿って、餓死者をふくめて、10億人が核戦争の犠牲になる可能性があるが、国連には、これを防ぐ手立てがない。
戦略核は、アメリカもロシアも、広島の1000〜3000倍の威力をもった核兵器(原爆・水爆・中性子爆弾)を5000発以上保有しているので、この戦略核をもちいた戦争はおこりえない。
ありうるのが小型核の使用によって誘発される「世界核戦争」である。
日本は、唯一の被爆国としての義務と使命感から、国連に「戦術核や非戦略核の放棄」を提案すべきではないか。
1919年、第一次世界大戦後の「パリ講和会議」で、日本は、人種的差別撤廃提案をおこなった。日本案にフランスやイタリア、中華民国らが賛成して反対のアメリカ、イギリス、ブラジルらを上回ったが、議長のアメリカ大統領ウィルソンが、急きょ「議決は、全会一致、あるいは反対票なし」でなければならないという事実上の拒否権を行使して、日本案をつぶした。
リヒテンシュタインは、世界で6番目に小さい美しい立憲君主制国家(人口4万人)である。そのリヒテンシュタインが、国連で、常任理事国の拒否権濫用に「ノー」の声をあげた。
同じ立憲君主国である大国日本が国連に「戦術核や非戦略核の放棄」を提案するのは、世界で唯一の被爆国である日本という国家の使命ではなかろうか。