●核の脅威を消滅させたウクライナのEU加盟
ウクライナが、6月23日、モルドバとともに欧州連合(EU)の加盟候補国に承認されて、ゼレンスキー大統領は「この日を待っていた。歴史的な瞬間だ」とこぶしをつきあげてよろこびをあらわした。
プーチンは「EUは軍事同盟ではない」として反対表明はおこなわなかったが、ロシアと交戦中のウクライナにとって、EU加盟候補国承認は大きな恩恵となった。
ロシアがウクライナ戦争で核兵器を使用する可能性が劇的に低下したからである。
ロシアが世界核戦争を望まないかぎりにおいて、EU加盟(申請承認)国にたいする核使用は、ヨーロッパへの核攻撃となるので、ありえないとはいえないが、考えにくい。
ウクライナ戦争の焦点は、当初から、核使用とどれだけの国がウクライナを支援するかの2点に絞られていた。
核の使用の危機は、ウクライナのEU加盟承認によって、一応、のりこえられた。
もう一つの焦点だったウクライナの支援国家のほうは、月に一度のペースでひらかれている国防大臣レベルの関係国会合で、ウクライナに軍事支援を約束する国が47にもたっした。
提供される兵器は、デンマークの対艦ミサイル「ハープーン」やイギリスの空対地ミサイル「ブリムストーン」、オーストラリアとカナダの榴弾砲「M777」、ノルウェーの対艦用NSMミサイルなどだが、アメリカも、射程がロシア領にたっしない範囲で使用できる多連装ロケットシステム(MLRS/HIMARS)の供与を検討している。
●中国の極超音速ミサイルに日本の技術
これらの武器がすべてウクライナ軍にいきわたれば、膠着状態にある戦況が一変する可能性もあるが、ロシアも、米原子力空母を一発で沈める威力をもつ極超音速ミサイル「ツィルコン(マッハ9)」を実戦配備するという。
核戦争を回避できたしても、つぎは、防御不能な極超音速ミサイルというのでは、軍事力によるウクライナ防衛どころか、軍事力による自国防衛すらなりたたなくなる。
極超音速ミサイルをもっているのはロシアと中国、北朝鮮で、日米は後塵を拝しているが、高市早苗総務大臣が衝撃的な告発をおこなった。
「スクラムジェットエンジンや流体力学、耐熱材料の技術などの日本の技術が中国の極超音速兵器の開発に使われている」というのである。
日本人の学者は、カネで買われて、じぶんの国にむけられるであろう中国の極超音速ミサイルの研究にとりくんでいるのである。
もっと深刻なのが「軍事研究の禁止」を主張している日本学術会議によって日本の大学や研究機関から精密誘導機器や耐熱・強度素材の研究が放逐されてしまったことだろう。
精密誘導機器は、巡航ミサイルなどに搭載される全地球測位システム(GPS)のレーダーで、現在、中国と台湾の独擅場である。日本の技術が先行したが、中国と台湾が逆転して、多くの日本人研究者が中国の「国防7校」などに招かれて、極超音速ミサイルの研究にとりくんでいる。
日本の「危機の構造」は、核や極超音速ミサイルよりも、国をまもる精神の欠如にあったのである。
●国をまもる気がない日本では成立しない核の議論
「戦争がおきたら国のために戦うか」というアンケートで「たたかう」と答えたひとが13%しかいない日本で、アメリカに「核の共有(ニュークリア・シェアリング)」を強硬に申し入れることなど、できるはずがない。
ちなみに、同アンケートは「世界価値観調査(WVS/電通総研)」という権威があるもので、13%という数字は、調査対象国79か国中ダントツの最下位(78位はリトアニア43%)だった。
核シェアリングは、西ドイツのアデナウアーの熱意がアメリカをうごかして、ようやく実現したもので、アメリカには、敗戦国のドイツと日本に独自の核をもたせる気などさらさらなかった。
日独が核の攻撃をうけても、核で報復する気もない。
だが、反ソ連(ロシア)の同盟国なので、核シェアリングや核の傘の「拡大抑止」というわけのわからないことをいってごまかしてきた。
日本が核の傘∴ネ外の方法で核装備するなら、イスラエルと同様、潜水艦以外の選択肢はないだろう。
イスラエルは、みずから公言しないが、核を、ドイツ製のドルフィン級通常型潜水艦に搭載している。
爆撃機による出撃では、先制攻撃が不能で、核抑止力としても不十分である。
弾道ミサイルも、地上の基地は、敵に攻撃目標をさしだすようなものである。
結局、おちついたのが、敵から探知されにくく、攻撃を予知されない潜水艦だった。
日本は、世界屈指の海軍大国で、潜水艦の製造や戦闘能力にかけては世界一である。その日本の潜水艦チームが日本近海で米原子力潜水艦との共同訓練を積み上げてゆけば、中国やロシア、北朝鮮は、日本の潜水艦が核装備していると想定する。
それが抑止力で、イスラエル潜水艦の核も、想定されているだけで、実際に見た者はいない。
岸田首相が国会でぺらぺらと非核三原則を口にするのは利敵行為で、国会で質問されたら、国防問題は、国家機密として、つっぱねておけばよいのである。
●ロシアの戦費は4か月で国家予算の10倍以上
木村太郎が「6月いっぱいでロシアは消えてなくなる」といったのは4か月の戦費合計が360兆円(1日約3兆円)にもなるからで、ロシアの国家予算(35兆円)の10倍をこえる。
ロシアが消えてなくならないのは、ルーブル紙幣を刷りまくっているからで、ロシアや中国、北朝鮮の経済が破綻しないのは、通貨発行を経済の原動力とする「MMT理論」をとっているからである。
国家があるかぎり、通貨発行によって、経済力を維持できる。国家を借金のカタに入れたバクチのようなもので、国家には無限の担保力があるので、いくらでも紙幣を刷れるが、その分、借金は、ふえつづける。
したがって、赤字が国家の担保力をこえると、極端な通貨安が生じて、経済が崩壊する。
それが、資源国家ベネズエラの悲劇で、地下資源の輸出だけにたよってきた同国は、2015年以降、通貨価値が100分の1以下となって、国家崩壊の危機に瀕している。
ロシアは、極超音速ミサイル「ツィルコン」を実戦配備する予定だが、このミサイルはきわめて高価で一基数百億円といわれる。
ロシアがこれを大量に使えば、戦費はさらにはねあがって、ロシアは大量に発行した貨幣が極端な通貨安を招く経済縮小(「MMTのジレンマ」)へむかうことになる。
中国がロシアの後ろ盾になっているのは、戦争で疲弊したロシアを事実上の属国にして、アメリカに対抗しようというもくろみで「中国と中央アジア5か国が外相会談」では、王毅外相が人民元による経済圏の構築≠うちあげている。
世界は、ウクライナ戦争をめぐって、混沌の度をましている。
だが、日本は、ただ呆然と手をこまねいているばかりである。
●公明と縁を切った自民党小野田紀美議員の心意気
自民党が、核という「国家の存亡」を左右する大問題をアメリカにゆだねて、核問題を真剣に考えようとしないのは、公明党と摩擦をおこしたくないからである。
公明党の「核廃絶・核不拡散・非核三原則」は創価学会婦人平和部隊≠フスローガンでもあって、政治でも政策でもない、念仏のようなものである。
したがって、公明党に迎合する自民党には、核問題を語る政治的見識や覚悟、信念や資格がなかったということになる。
7月に予定されている参院選挙で、自民党現職の小野田紀美議員が公明党の推薦を拒絶して、公明党が推薦を取り消すという椿事がおきた。あわてたのが公明票で当選してきた自民党議員で「迷惑な話」「公明に詫びを入れるべき」と青くなったが、当の小野田議員は、推薦取り消しに「それで結構」と平然たるものだった。
小野田紀美は、父親がアメリカ人のアメリカ育ちで、親台湾派である。中国にべったりの公明党や創価学会はうけいれがたいが、それよりも納得できないのが、アメリカ育ちらしく自公癒着≠ニいう日本的なご都合主義だった。
自民党が防衛問題や憲法改正、皇室問題などで、迎合的なことしかいわなくなったのは、公明の反発をおそれているからで、天皇よりも池田大作が大事な公明党と足並みを揃えて、国体にそった保守政治をおこなえるわけはない。
公明と手を切れば、いまや、公明の下駄の雪となった自民は、大幅に議席を減らして、維新の会とでも連立を組まなければ政権を維持できなくなるだろうが、そのとき、ようやく、国防や憲法など、本格的な政治議論ができるようになるのである。
ウクライナ戦争というきびしい世界情勢のなか、非核三原則の念仏を唱えている公明党、その公明党と手拍子を合わせている自民党に政治をまかせておくのはじつに心もとない話なのである。