●国際派はなぜウクライナ情勢が読めないのか?
ウクライナ軍は「竜の歯」と呼ばれるロシアの戦車防御網を突破して、ロシア軍が占領している南東部ザポロジエ州からアゾフ海(黒海に隣接)へいたる要衝を分断する当初の戦略目標を達成しつつある。
ウクライナ軍がザポロジエの一部を奪還できれば、そこからロシア軍が占領する4州や黒海艦隊がいるクリミア半島にミサイル弾を撃ちこむこともできるようになる。
ウクライナ軍の目標は、クリミア大橋とクリミア半島の西端セバストポリを攻略して、ロシアの黒海艦隊やS400ミサイル防空ミサイル網を無力化することにあったが、配備されていたS400ミサイル5基のうち、ウクライナの国産ミサイルネプチューンや自爆ドローンによって、すでに3基が破壊されている。残っているのは2基だけだが、くわえて、黒海艦隊も、母港(クリミア半島セバストボリ)や司令本部、燃料タンクがウクライナ軍の攻撃にさらされている。
「世界軍事費ランキング」でロシア(2位)に大差をつけられていたウクライナ(36位)が善戦している理由は、投入できる軍事力が限られる局地戦では軍備よりも兵士の士気がモノをいうからである。
くわえて、ウクライナの軍事力は、この数年で6倍にのびて、36位から日韓に肉薄する11位まで上昇している。
鈴木宗男や橋本徹、左翼陣営や国際派は、ウクライナは偉大なロシアに歯が立つわけはないのでさっさと白旗を捧げろと主張したが、事態は、まったく逆の方向へすすんでいる。
国際派らがまちがえたのは、世界版図を大国小国や陣営主義、強国従属や合従同盟、グループ化などの旧来の固定観念でとらえたからで、現在は、ソロモンのような小さな国でさえ、米中豪などの大国と堂々とわたりあっている。
一方、日本の国際派は、強烈な西洋コンプレックスの持ち主なので、欧米から相手にされない、バカにされる、あるいは、反発を買うといって、日本の外交の足をひっぱっている。
●日本の針路と思考を誤らせてきた国際派
日本では「世界にみとめられた」というのが最高のほめことばだが、こんな愚かで、恥ずかしい物言いがあるだろうか。
外国にみとめられて一人前という考え方は、明治の鹿鳴館時代のもので、西洋コンプレックスの極みである。
日本の歴史家が縄文時代にふれないのは、西洋史が、縄文時代から5千年もあとのメソポタミア文明からはじまるからで、当然、歴史学的・考古学的な史料は皆無である。
当時の西洋は、石器時代というよりもほとんど原始時代で、西洋の石器時代から三内丸山遺跡に代表される縄文時代の文明がわかるはずはない。
日本の歴史家は、じぶんの頭で考えることができないので、中国の書物に日本の記述がないといって、古墳時代をふくむ大和時代を「空白の4世紀」と呼んで、名称ごと消してしまった。
だが、この時代は、記紀や風土記などの歴史書のほか、16万基もの古墳やおびただしい出土品(銅鏡や銅鐸、埴輪や武具など)があってこれほど研究のしがいがある時代はなかったはずである。
戦後、マルクス主義者にのっとられた歴史学会の使命は、皇国史観の否定であった。
それには、天皇中心に形成された大和朝廷を歴史から抹殺しなければならなかった。
そのために利用されたのが3世紀末の中国史「三国志」に登場する邪馬台国と卑弥呼だった。
膨大な文書のわずか数ページを割いただけの「魏志倭人伝(倭人の条)」の撰者は陳寿とされるが、陳寿は、倭の国に行ったことがなく、すべて伝聞なのであてにならないとみずから書き残している。
裏づける他の史料が一点もなく、里や歩、水行や陸行と距離の単位もばらばらで、陳寿が噂話と告白したとおり倭人伝はただの見聞で、第一級史料というにはほど遠い。
邪馬台国と卑弥呼の文字は、記紀や風土記などに記述がなく、全国13万の神社に邪馬台国と卑弥呼を名乗ったものは一つもない。3万社あるお稲荷さんでさえすべて名乗りがあるというのに、古代日本の誉れある名称である邪馬台国、その女王だった卑弥呼をまつった神社が一社もないのは奇異な話だが、地方に残っている建国伝説や神話にも邪≠竍卑≠ニいう卑しい漢字を使った文字はみあたらない。
マルクス歴史学者は、大和朝廷、大和時代という名称を抹殺して、日本史を皇国史観から唯物史観に書き直したと大満足だが、その手法が「外国から見た目線」で、外国から日本古来の縄文文化や大和朝廷、大和時代が見えるわけはない。
けれども、国際派は、わが国の歴史からは見えない邪馬台国や卑弥呼を実際にあったことにしてしまったのである。
●知恵ではなく、知識をふりまわす国際派
外国の目線で世界を見るという悪癖をもっているのが日本の国際派で、かれらには、西洋を基準にモノを考え、日本を恥ずべき存在と見ていながら、臆面もなく愛国者を自称するという特徴がある。
寺島実男ら国際派から、ユーチューブ評論家の西村博之や中田敦彦、成田悠輔、渡瀬裕哉らの発言が空疎で無内容なのは、学歴や知識がゆたかでも、日本人としての芯がないからで偏狭なナショナリズム≠批判してきた朝日新聞を読んで育った連中とすぐわかる。
したがって、世界情勢がまったく読めない。憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼」を盲信しているらしく「われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」という調子で、世界各国がエゴイズムのかたまりであることにとうてい思いいたっていない。
ウクライナ戦争で苦戦しているロシアは、支援国だったトルコやイランとの関係がうまくいかなくなって、急きょ、北朝鮮に接近した。旧ソ連製の武器を使っている北朝鮮から砲弾を支給してもらおうと思ったのだろうが、このときプーチンは、派兵まで要請したとつたえられる。
トルコとの関係がギクシャクしているというのは、トルコがスウェーデンにつづいて、ウクライナのNATO加盟を支持したからで、トルコは、ロシアのウクライナ4州併合が国際法の重大な違反だったとしている。
NATO加盟国で、EU加盟をめざすトルコは、ウクライナ戦争以来、外交的なバランスに配慮して、ロシアともウクライナとも良好な関係を保ち、西側の対ロ制裁に反対する一方、ウクライナに武装ドローン(無人機)を提供してきた。
ロシアがトルコに反発できない理由は、ウクライナ戦争以降、経済的にトルコに大きく依存しているからである。
トルコとロシアが手をむすんだのは、20世紀末以降、ともに、欧米主導の国際秩序に反発してきたからで、共通に利害は経済だけだった。
ロシアとトルコが良好な関係にあったこの15年は、両国の歴史からみれば例外的な時期で、ロシアは、黒海とエーゲ海をつなぐダーダネルス海峡、マルマラ海、ボスポラス海峡をトルコから手に入れることに執着して、スターリンは、トルコで共産主義革命をおこそうと画策したほか、その後もクルド労働者党(PKK)を支援してトルコの政情不安をはかってきた。
クリミア編入によって、トルコも、ウクライナ同様、ロシアに大きな脅威をかんじているのである。
●世界をリードする日本の足をひっぱる国際派
同盟関係にあると思われていたロシアとイランだが、イランのモハマド国防相が「国内で戦闘機を生産できる」としてスホーイ35の購入計画を破棄して「ロシアと戦略的な同盟関係にはない」と明言するなど両国にあいだに冷ややかな空気が流れている。
また、ペルシャ湾の3つのイラン領の島々をめぐる紛争で、ロシアがUAE(アラブ首長国連邦)側を支持したことに反発して、イランが日本の北方領土への支持を表明するなど感情的なしこりも生じている。
もともと、ロシアとイランの蜜月関係は、共通する反米感情から生じたもので、両国にきずななどない
一方、ポーランドのモラウィエツキ首相は、穀物の輸入規制をめぐる交渉が決裂して「ウクライナへの武器供与をやめる」とのべ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ポーランドは、連帯しているように見えるが、実際はロシアを手助けしている」と非難した。
このもめ事は、ポーランドのドゥダ大統領はなかに入って収拾がつけられたが、これら一連の出来事からわかるのは、国家関係はご都合主義で、法則などないということである。
かつて、安倍元首相がウクライナ戦争の仲裁者として、世界から期待をよせられたとき、日本の国際派は「百年はやい」「日本の恥さらし」「世界からバカにされると」と言い立てた。
国際派というのは、結局、劣等感のかたまりなので、じぶんの頭で考えるのではなく、世界や他国の顔色を見て、へつらうだけである。
そのとき、動員されるのは、知恵ではなく、知識や学識、教養である。
日本では、西洋から学んだインテリが大きな顔をする奇妙な国である。
世界が愛国心と一国主義、打算でうごいていることを忘れてはならない。