2023年10月01日

「自由主義」と「民主主義」の相克と調和22

 ●ロシア苦戦を読めなかった日本の識者たち
 ロシアがウクライナへ侵攻した当時、多くの識者は、小国ウクライナは大国ロシアに歯が立つわけはないので、さっさと降参すべきと口を揃えた。
 ロシアとウクライナの国力差は、経済力で10〜15倍、軍事力で5〜10倍の較差があるので、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を陥落させるには3日もあれば十分というプーチンのことばを多くの日本人は真にうけた。
 だが、実際は、1年半たっても戦線は膠着したままで、ロシアでは、多くの高級将校を失ったばかりか、侵攻した4州とクリミア半島で苦戦を強いられている。
 そのうえ、ウクライナは、アメリカの最強戦車「エイブラムス」やF16戦闘機(61機)、長距離地対地ミサイルATACMSを供給される予定なので、それでなくとも劣勢のロシアがさらに追いこまれる可能性が高い。
 日本人がロシア圧勝と読んだのは、総合力から判断したからで、日米戦争で日本に勝ち目がなかったというのと同じ発想である。日米戦争で日本が負けたのは、ミッドウエー海戦で大敗してサイパン島や硫黄島をとられたからで、それ以上の理由はない。
 日露戦争と日米戦争当時の両国の国力の差は、似たようなもので、ハワイやフィリピンをとられると、旅順をとられて降参したロシアのように、アメリカは、白旗をあげるしかなかった。はじめから日本に勝ち目がなかったというのは、勝ち馬にのった結果論で、ムードで語っているだけである。
 戦争は、すべて、局地戦なので、総合戦力が勝っていても戦争に勝てるとはかぎらない。局地戦でモノをいうのは、作戦にくわえて個人の戦闘力と武器の破壊力で、たとえ世界2位の軍事力をもっていても、6000発の核をもっていても、局地戦にはなんの役にも立たない。
 核を使えば勝負がつくというのは短絡で、核を使えば、地球共存者としての資格を失って、すべての国から国交を断たれる。世界は複雑な関係の上になりたっているので、交易から通貨、文化や人的な交流までの国際関係を断たれると、たとえ、戦争に勝っても、国家は亡びる。

 ●総合戦と局地戦の仕分けができない戦争評論家
 総論がすきな日本人は、中国は世界第2位の経済大国で、日本は世界第3位の経済大国といいたがる。
 だが、経済大国だからといって、経済戦争に勝てるわけではない。半導体やパソコン、スマホ、太陽電池といったデジタル分野の局地戦で、日本が韓国や中国、台湾に負けつづけてきたのは、技術で優先していながら、生産や資金の局面で後れをとったからである。
 GDPは人口と付加価値(儲け)を掛け算した総額で、決定的にモノをいうのは、人口である。
 したがって、人口の多い国のGDPが大きいのは当然である。
 世界の人口比を見てみよう。
 1位 中国 約14・4億人
 2位 インド 約14・1億人
 3位 アメリカ 約3・4億人
 4位 インドネシア 約2・8億人
 5位 パキスタン 約2・3億人
 6位 ナイジェリア 約2・2億万人
 7位 ブラジル 役2・2億万人
 8位 バングラデシュ 約1・7億人
 9位 ロシア 1・5億人
 10位 メキシコ1・3億人
 ちなみに日本は1・2億人で11位である。
 つぎに国別GDPに目をむけよう。
 1位 アメリカ 約25・5兆億ドル
 2位 中国 約18・1兆億ドル−
 3位 日本 約4・2兆億ドル
 4位 ドイツ 約4・1兆億ドル
 5位 インド 約3・4兆億ドル
 6位 イギリス 約3・1兆億ドル
 7位 フランス 約2・8兆億ドル
 8位 ロシア 約2・2兆億ドル
 9位 カナダ 約2・1兆億ドル
 10位 イタリア約2・0兆億ドル
 人口と国別GDPがほぼ一致しているのはアメリカと中国、日本だけである。
 人口の多い国にもかかわらずGDPが低いのは、民主化・自由化がすすんでいないからでそれを如実にあらわしているのが一人当たりGDPである。
 国別GDPで2位の中国と5位のインド、11位のロシアが一人当たりGDPでは50位にすら入っていない。ロシアが63位、中国が68位、インドにいたっては、国家破産したベネズエラやスリランカよりも低い147位である。
 たとえ、IT先進国であろうと、カースト制が足をひっぱって、資本主義の健全な発展を妨げているわけだが、イスラム教の大国も、宗教的戒律によって資本主義の水と空気≠ナある民主主義と自由が封じこまれている。

 ●人間の戦闘力と文明力が戦争の勝敗を決する
 日本の一人当たりGDPは30位で英独仏伊のやや下位である。
 日本のGDP3位は、一人当たり30位のGDPに世界11位の人口を掛けた数字で、いわば、幻の経済大国なのである。
 日本の新聞は、日本のGDPは世界3位と吹聴するが、国力は、人間の数Χ付加価値ではなく、人間の能力Χ付加価値である。そのことに気がつけば、GDP世界第3位などと威張っているわけにはいかなくなる。
 世界の一人当たりGDPのトップ30を見るとおもしろいことに気がつく。
 1位のルクセンブルクからノルウェー、アイルランド、スイス、カタール、シンガポール、アメリカ、アイスランド、デンマーク、オーストラリア、オランダ、スウェーデン、カナダ、イスラエル、オーストリア、アラブ首長国連邦、フィンランド、ベルギー、サンマリノ、香港まで、アメリカとカナダ、オーストラリアを除いて人口が少ない先進的な小国ばかりで、したがって一人当たりの所得は、当然、高い。
 このなかに中立国家(スイス・ベルギー・オーストリア)やタックス・ヘイブン(ルクセンブルク)がふくまれているのは、多国籍企業や富裕層が膨大な資金をもちこむからだが、これもまた国際資本主義の一側面である。
 20位以下は、ドイツからニュージーランド、イギリス、フランス、イタリア、日本、台湾、韓国などがつづく。
 これが正しいGDPで、国の大きさと経済力はかならずしも一致しない。
 軍事力も同様で、国が大きいからといって、戦争に勝つとはかぎらない。
 戦争が、核戦争以外、すべて局地戦で、勝敗を決するのは、人間の戦闘力と文明力である。
 そのことは、今回のウクライナ戦争によって、イヤというほど思い知らされたはずである。
 日本の評論家は、総合力から判断して、台湾は中国の比ではないというのだが、かれらは、ウクライナ戦争で犯した見とおしの甘さをふたたびくり返している。
 こういう識者にかぎって、日米安保や「核の傘」「核共有(ニュークリア・シェアリング)」などについて、不毛な議論をふっかけてくる。
 アメリカは、日本に代わって敵と戦ってくれないというのだが、当たり前である。
 アメリカはアテにならず、日本もみずから戦う気がさらさらない。中国に攻められて、かなうわけはなく、イノチも惜しいので中国の属国になる(玉城デニー沖縄知事)というのが総論(=結果論)というもので、これが橋下徹らを中心に日本中に蔓延する敗北主義である。

 ●すぐれていた安倍元首相のアジア防衛論
『自由で開かれたインド太平洋』の安倍晋三元首相が唱えた「戦後レジームからの脱却」は、日本がアジア安保の中心軸になるという構想で、アメリカ(2015年4月29日連邦議会演説)をはじめ欧豪印らからつよい支持をうけた反面、中国をはじめ日本の反日左翼、親中派、新聞マスコミから猛烈な反発を買った。
 安倍構想は、自衛隊を国家公務員から軍人に昇格させ、日米のほか、日英や日豪とも軍事同盟をむすんでオーカス(アメリカ、イギリス、オーストラリア)の関係を密にする。そして、クワット(日米豪印)への連結を固めて、ファイブ・アイズ(アメリカ/カナダ/イギリス/オーストラリア/ニュージーランド)にくわわって最終的にはNATO(北大西洋条約機構)に参入、東京にNATO事務局を置くというものだった。
 これにたいして中国は「ブリックス(南アフリカ、ブラジル、インド、ロシアなど)」や「グローバルサウス」をひきいれて日本に対抗しようとしているが、そんなものはほうっておけばよい。
 グローバルサウスは、1955年の「アジア・アフリカ会議」の延長線上にあって、原点は、大東亜共栄圏である。AA会議で、インドのネルー、エジプトのナセル、インドネシアのスカルノ、ビルマのウー=ヌーらが、第三世界の結束は、日本の大東亜共栄思想が土台になったとのべている。
 戦後からはじまったODA(政府開発援助)も、1970〜2000年代まで日本がアメリカをおさえて世界一(アンタイド率約90%)で、これを高く評価するグローバルサウスの対日感情がわるいはずはない。
 グローバルサウスのなかで対日感情がわるいのは、中国の資金注入をうけた国々ばかりで、日本をきらっているのは、中国とロシア、北朝鮮、韓国野党と日本の工作員(左翼と平和主義派)だけだが、かれらの狙いは日本の軍事力の弱体化にある。
 左翼化したドイツ(ショルツ首相/社会民主党)すらウクライナ戦争をみて防衛費を倍増させたが、日本の反日左翼や平和主義者は、防衛費増強によって日本が中国・台湾戦争にまきこまれると主張している。
 次回以降、中国・台湾戦争と、これをとりまく国内および世界情勢についてのべよう。

posted by office YM at 08:56| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする