2023年10月08日

「自由主義」と「民主主義」の相克と調和23

 ●節度ある自由≠ェささえてきた先進国の経済
 かつてゆたかだったが、現在、極貧国となった10か国のリストがある。
 アンゴラやギリシャ、カンボジア、フィリピン、キューバ、イラク、ラトビア、ナウル、ベネズエラ、アルゼンチンの10国である。
 共通点は、資源国家か独裁国家、企業の国有化、あるいは、ポピュリズムに走った国で、このことからも、資本主義の発展には、自由と民主主義、節度の3つが必要だったとわかる。
 地下資源やコーヒーなどの産出でゆたかだったアンゴラは、企業の国有化と内戦で、国中に地雷が埋まった貧しい紛争国になり、シアヌーク殿下のもとでゆたかな生活を享受していたカンボジアはポルポト革命で2百万の善男善女が殺されて(キリングフィールド)極貧国に転落した。
 フィリピンやイラク、キューバは、独裁と非民主義化によって、資本主義が息絶えて貧困化したが、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の雄だったラトビアもソ連に呑みこまれてかつての栄華を失った。
 地上の楽園と呼ばれたナウルは、国家経済を支えていた世界一のリン鉱石が枯渇して貧困化したが、石油埋蔵量が世界一のベネズエラも、ポピュリズムによって、現在、国民の4分の3が食うか食わずの飢餓状態にある。
 ポピュリズムによって貧困化したのは、かつて高度成長を誇ったギリシャや南米最大の富める国アルゼンチンも同様で、経済の発展には、自由と民主主義にくわえて、大衆迎合を制御するモラル、規制が必要だったとわかる。
 資本には「資本の論理」というものがあって、これは、資本の自己増殖運動ということができる。
 資本主義とは、資本を投下し、そのうえで、投下資本以上の資本を回収するメカニズムで、その過程において、製品・商品の製造、雇用や設備投資、価格安定などが図られる。
 その全体のバランスをたもつのが近代経済学で、そこに、ケインズ経済学もふくまれる。
 これにたいして、マルクス経済学は、近代経済学における利潤を労働価値の収奪(ドロボー)と見て、そこから、人民から労働価値を盗むドロボー(資本家)を倒せという革命思想がうまれる。
 新自由主義や市場原理主義、小沢・小泉改革もマルクス主義の亜流で、これが失敗したのは、政治や経済の一局面しか見ないからで、その視野狭窄こそが唯物論=マルクス主義の一大欠陥である。

 ●均衡とバランスから成り立つ経済原理と保守主義
 政治も経済も均衡とバランスによって成り立っている。
 このバランスが保守主義で、このバランスを壊そうというのがマルクス主義に立つ左翼やリベラルである。かれらの革新や改革が不毛なのは、革新や改革が、保守という土台の上にあることに気がついていないからである。
 保守政治の根幹をゆさぶった30年前の小沢の政治改革や自民党をぶっつぶせ≠フ小泉改革、鳩山の民主党政権が壮大なる失敗だったことは「失われた30年」が如実に物語っている。
 この30年間、日本がとってきた政治経済はマルクス主義にのっとったもので、政治は、徹頭徹尾、改革主義、そして、経済はマルクス経済一辺倒だった。
 新聞マスコミは、円高になると円高によって日本はつぶれる、円安になると日本は破産すると騒ぎ、1200兆円の財政赤字によって、日本に未来がないと吹聴してまわる。
 これがバランス感覚を失ったマルクス経済の論法である。マルクス経済には為替レートも貸借対照表(バランスシート)も、マネタリーベース(資金供給量)も金利政策も、インフレやデフも、雇用と失業に関する知識さえろくにもちあわせない。
 あるのは、労働価値説と賃金論、独占資本論と帝国主義論だけで、これが革命のマルクス主義につながって、資本主義を倒せという理屈がうみだされる。
 日本の大学では、90%がマルクス経済なので、財務省や日銀に入った東大出身の高級官僚は、近代経済学に転向するのに3年以上かかるという。
 円高や円安によって日本はつぶれる、財政赤字によって日本に未来がないというのは、為替レートを知らないマルクス経済の言いぐさで、アメリカが金融の引き締めでドル高になれば、日米のマネタリーベースは、為替レートでバランスをとりあうため、円安にふれて、輸出が好調になって、好況になる。
 そんなかんたんな仕組みさえわからないのがマルクス経済学なのである。
 
 ●絶好調だった日本経済を潰したマルクス経済の霞が関
 この好況がつづいたのが30年前の日本経済で、当時、税法の不備で不動産高になった以外、経済状態はきわめて良好だった。
 これに腹を立てたのが、霞が関に巣食うマルクス主義者たちで、マルクスの予言どおりに経済破綻しないのは、なにかのまちがいだといって、総量規制という暴力的な金融引き締めに走って、日本経済をつぶした。
 そして、日銀・財務省は、その後、マルクス経済のデフレ政策をとりつづけて「失われた30年」をつくりあげた。
 円安になるとインフレになって、国富が失われるというのは、マルクス経済(帝国主義論)の最大の誤りで、為替レートによって、国がゆたかになったり貧しくなったりするはずなどない。まして、円安が高じてハイパーインフレになるなどというのは言語道断である。
 ハイパーインフレは、貨幣価値が下がることではなく、生産能力が壊滅して価格が高騰、金銭でモノが買えなくなることで、為替とはなんの関係もない。
 だが、日銀のマルクス主義者たちは、ハイパーインフレをおそれて、過剰なインフレ防衛(デフレ政策)をとりつづけて日本経済の息の根をとめた(「失われた30年」)。
 それまで、世界のトップに君臨していた半導体などを中心としたIT企業(NTT、NEC、日立、東芝、富士通、三菱電機、SONY、SHARP、京セラ、パナソニック、ソフトバンクなど)が凋落したのは円高(デフレ)で国際競争力を失ったからで、競争相手がいなかった半導体の材料(半導体製造装置/半導体ウェハー)の分野において、日本がいまだに世界のトップの座にあるのがその証左である。
 
 ●アベノミクスをささえた二人のノーベル経済学者
 巨額の財政赤字で、日本に未来がないというのもマルクス学者の無知によるもので、マルクス経済学には、貸借対照表の観念がないので、1200兆円の財政赤字で日本経済の首がまわらなくなったなどの俗説をふりまく。
 一般会計の複式簿記では「貸借平均の原理」がはたらくので、借方の合計と貸方の合計がつねに一致する(貸借対照表/損益計算書)。したがって、借方(資産+費用)=貸方(負債+資本+収益)となって、経済の規模が大きくなるほど、借方・貸方とも額が大きくなる。
 日本の場合、国と地方の借金(国債の発行残高)は1200兆円といわれるが、国債の引き受け手の45%は、政府の子会社である日銀である。日銀への金利はすべて国庫納付金(日本銀行法第53条)として返ってくるので、政府は腹が痛まない。
 残りの国債をもっているのも、保険・年金基金(35%)なので、売りとばされたり価格が暴落したりする懸念はない。
 国債を借金と考え、デフレ政策をとって「失われた30年」をつくったのがマルクス主義経済しか知らない霞が関の役人で、これを断ち切ったのがアベノミクスだった。
 だが、残念なことに、コロナと消費税で、アベノミクスにブレーキがかかってしまった。
 アベノミクスの根幹をつくったベン・バーナンキ(「デフレ退治」)とポール・クルーグマン(「インフレ目標理論)」は二人ともノーベル経済学賞を受賞しているが、高橋洋一以外、マルクス主義にこりかたまっている日本の経済学者と交流がない。
 現在、アベノミクスで脱デフレに成功した日本は、半導体の8社連合(トヨタ自動車、デンソー、ソニー、NTT、NEC、ソフトバンク、東芝系列キオクシア、三菱UFJ銀行)で世界に挑戦するが、もはや、円高という最大の壁はとりはらわれている。
 日本のマルクス経済学者らは「失われた30年」の原因が円高だったことをみとめないが、世界の近代経済学の学者は、多くが、円高(デフレ)から脱出しつつある日本の躍進を予言している。
 次回は、日本経済の展望と、マルクス主義に縛られたままの中国とロシアの経済の行く末をながめてみよう。
posted by office YM at 19:54| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする