●台湾新総統 頼清徳にもとめられる独立と現状維持のバランス感覚
世界で、今年、注目されている3つの大選挙〜台湾の総統選挙とアメリカ大統領選挙、ロシアの大統領選挙のうち、ロシアの選挙は、なるひと(プーチン)がなるだけで、これは、既成事実みたいなもの。
注目された台湾総統選では、民主進歩党の頼清徳が当選、民主進歩党政権は蔡英文(2期)につづいて3期目に入ることになる。
民主進歩党が掲げる台湾独立には、歴史的に複雑な事情、紆余曲折がある。1947年、外省人の蒋介石軍(国民党軍)が中国本土から台湾に入ってきた。抵抗したのが本省人と呼ばれる台湾人だった。蒋介石の国民党軍と台湾人が衝突した2・28事件。この白昼テロで台湾人が3万人殺された。
台湾独立は国民党軍の大陸反攻のスローガンだったが、人口の70%を占める台湾人(本省人)にとって大事なのは、台湾独立よりも現状維持ではないか。
頼総統はつよい独立運動の意思をもっている。
だが、うかつな独立運動は中国の軍事行動を誘発しかねない。
いずれにせよ、アメリカ大統領選次第で、台湾海峡に波風が立つことになる。
昭和42年、明治大学の王育徳という教授から台湾の独立運動に手を貸してほしいとたのまれた。
当時、日本には5万人ほどの台湾人がいた。台湾人による台湾〜台湾の自治という旗を挙げて、台湾青年独立連盟が発足した。わたしは、日比谷公会堂でおこなわれた第一回目の大会に同志を集めて参加した。
このあと、防共挺身隊という右翼団体の長である福田進がやってきた。
「これから台湾に入れないゾ 何応欣将軍が怒っているゾ」
何応欣は、蒋介石の片腕といわれた人物で、日本に太い人脈をもっていた。
わたしも、何応欣には、それまでいろいろ世話になってきた。何応欣にしてみれば、これまで、面倒を見てきた山本が、なぜ台湾の独立運動に加担するのかと腹立たしかったのであろう。
以後、台湾には行かなくなったが、台湾青年独立連盟には王育徳の娘さんが深くかかわっておられる。
そういう経緯もあって、わたしが政治する政党は民進党。
アメリカは、72年のニクソン、キッシンジャー訪中で「中国は一つ(台湾は中国の一部)」という論にとりこまれた。田中角栄も、周恩来との日中共同声明で、台湾が中国の一部であるとみとめた。日米とも台湾を裏切ったのである。
それではなぜ台湾問題がおきたのか。
力による現状変更はダメ、という国際世論が、中国の軍事行動にブレーキをかけているからである
台湾が中国の一部であることをみとめておきながら軍事行動はゆるさないという危うい論法である。
日本政府もアメリカも中国に力による変更はノーといっている。
だが、台湾をまもるとはいっていない。
台湾海峡の平和をまもれというのは、力による現状変更はダメという意味である。
「統一は必然」という習近平も「軍事力でカタをつける」とはいっていない。
現状維持によって、台湾の実質的な独立はまもれる。
現状維持は台湾にとって有効な戦略なのである。
台湾を軍事力でまもるのなら、アメリカは台湾に基地をおけばよい。
だがそれはできない。
それでも、顧問団や武器専門家は台湾で軍事指導をおこなっている。
台湾がとるべき戦略は現状維持〜現状維持を積極的な政策にすべき。
台湾にとって独立より大事なのは中国の軍事的暴走を抑止すること。
独立は内政でうったえて、外交では裏に隠す。
現状維持でおしとおすと中国も手が出せない。
現状維持のなかで、大国としての存在感を高めて、しっかりとじぶんの国をつくってゆく。
半導体の世界シェアの約60%を台湾が握っている。21世紀の産業の米といわれる半導体のシェアをたもってゆく。経済力や経済的影響力も国家防衛の大きな要素なのである。
台湾防衛のカギを握るのはアメリカ。
アメリカに本気で台湾をまもる気があるのか。
中国が攻めてきても武器だけ出して兵はださないという可能性が高い。
ウクライナ戦争では武器を提供しただけだった。トランプはわたしが大統領になったら一日でウクライナ戦争をやめさせられるといっている。ということは、手を引くということである。
孤立主義やアメリカ・ファーストはアメリカの伝統的な国是。
かつて、ウイルソン大統領も国際連合をつくっておきながら議会に押し切られて孤立主義をとった。
台湾防衛のウエイトは、大きくアメリカにかかっている。
台湾の軍事力上がっても下がっても大きな問題ではない。
アメリカと中国は深い関係にある。資本も相当に入っている。キッシンジャー、ニクソン訪中以来、香港などをとおして資本が移動してきた経緯もある。
アメリカが中国とまっこうから対立しているというのは大きなまちがいなのである。
どの国も国益主義に立っている。
その国益主義が外交政策に反映される。
台湾問題でも、アメリカ大統領選挙が大きな影響をあたえることになるのである。